第21話 美人社長もTAPして欲しい




ひょえええええ





心の中で情けない声が木霊する。

この俺、鷲尾壮太は生まれてこのかた、有名人なる人と、ついぞ関りなど無く、生きてきた。有名人に会ったとしても遠巻きに眺める程度


そんな訳で、この時、非常にテンパってしまい、何を話したかあまり覚えていない。



「龍宮寺楓は中々肝が据わった子でねぇ、ぜひ我が社に来ないか?なんて話をしていたよ、ははは」



なんだろう、あいつの高評価

俺ももっと、へりくだるべきだろうか(弱気)



そんなこんなで美空社長の目的は、

ソシャゲ迷宮で瀕死になったのでTAPして欲しいとの事だったので素直にスマホをかざす。



その後、どっと疲れた気がするが

遅刻しないように出社して




・・・




今現在、定時過ぎ




ウチの課のほとんど残業体制だ。



(ヤバいな、このままだと納期に間に合いそうもない)



俺が何か動くことは出来ない。

そんな事をすれば、課長のメンツを潰すことになる・・・



気晴らしに

自販機にお金を入れていると、後ろから突然声がし、肩を叩かれる。




「タップです」




咲宮さんだった。

「?」俺は訳も分からず、スマホを差し出す。



「違いますよ、リアルの鷲尾さんを蘇生したんです」



「あ、そういうこと」


口を押えて上品に笑う仕草は可愛らしい。

(これは、惚れてしまうだろー)という叫びは心の中にしまう。




「冗談はさておき、大変そうですね、私も手伝った方がいいですか?」




正直、人手が一人増えた所でどうにかなりそうじゃない、これはウチの課の問題だから関わらない方がいいよ。


その善意を嬉しく思いながら、

俺は彼女に帰るように促した。




ついでの雑談で

咲宮さんに今日、『美空社長』に会った話をした。

彼女はくすくす笑ってこう返す。



「彼女は、個人資産数百億の大富豪ですよ?都営線の電車に乗っているなんてあり得ないと思います」



それも、そうだよな・・・

俺も今朝の事は、夢だったと忘れることにした。


ふとスーツのポケットに何か入っている事に気づく。

それは上質紙で作られた名刺で『美空コーポレーション、代表取締役、美空君江』と書かれていた。





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