第30話 いきなり温泉旅行



その月は激務だった。




大型案件でなおかつスケジュールが押しに押したため、納期を死守するために、色々な人が駆り出されて深夜まで業務が続く。



そして、いよいよ業務が片付きだして、今日、ようやく定時退社する事ができた。前日の深夜残業のためか、誰も彼もふらつきながら、ゾンビの様に帰っていく。



駅のホーム



久々に明るいうちから帰れる。

なんか涙が出てきそう・・・


ふらついていると


誰かにぐっと腕を掴まれる。



「咲宮さん!」


咲宮さんが、心配そうな顔で俺の腕を掴んでいた。


「すいません・・・ホームに飛び込むんじゃないかとびっくりしまして・・・」



「まさか・・・そんな事しませんよ、でも、ありがとうございます」



「いいえ」


お礼を言われて、少し気恥ずかしそうに耳に掛かる髪を触る咲宮さんは美人だ。



せっかくだから途中まで一緒に帰ることになった。



大きな駅の乗り換え口

特急電車が次々と出発していく。



(あれは東北行きか・・・)



「新幹線とか見てると・・・このまま、あの列車に乗って、どこか遠くへ行ってしまいたいって気分になりますよね」



「・・・」



咲宮さんは下を向いてスマホをいじっている。あー面白くない冗談だったかな・・・



「良いですね、では行きましょう」



目を丸くしている俺を引っ張り、咲宮さんは新幹線のホームまで進んでいく。



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