第23話 悪は栄えず



なぜ美空社長がここに居るのか?




「この間、名刺交換した時、いつでも遊びに来て良いと言っていたではないか」


名刺交換・・・したっけ?

というか「いつでも遊びに来ていい」とか、

俺、そんな事を口走ってたの?


おぼろげな記憶を辿ると

確かにテンパってそんな事を口走っていたかもしれない。





「なんだ?この女は・・・」





取引先の男は

美空社長をねっとりした視線で観察しながら

舌なめずりをする。





「いや、この女も・・・中々美味そうだな・・・こりゃ、二人同時に、お相手してもらおうかなぁ?」





空気を読まず

ニタリと気持ち悪い笑みを浮かべる取引先の人

(おい、馬鹿やめろ)

という思考がよぎるが、もう遅いみたいだった。




「ん・・・あなたは・・・小判鮫株式会社の後藤専務だったかな?、3ヶ月前の打ち合わせ以来だな」




美空社長は取引先のこの人を、ばっちり知っているようだ。


その反応に、男は、急に冷静になり

徐々に状況を理解して、

顔がどんどん青ざめていく。




「まままままま・・・まさか・・・みみみみ・・・美空グループの美空取締役!?」




声がこれでもかというぐらい上ずっている。


なんというか

流石に取り乱し過ぎじゃないかこの人

・・・何か やましい事でもあるんだろうか?






「社長、おおよその状況、把握しました」






秘書の男が、すっと美空社長の横に戻り、報告を上げる。



「どうやら、後藤専務・・・仕事を依頼したこの会社が納期を守れない事に抗議していたようです・・・それだけなら問題ありません・・・が・・・この依頼した仕事の内容、『我が社が小判鮫株式会社に依頼した内容』と『全く同じ』でした」




「ひ・・・」


ビクつく男

秘書は説明を続ける。




「我が社が、小判鮫株式会社に今回の仕事を依頼する際に、守秘義務の観点から、『絶対に他社に仕事を流さない事』ときっちり明記し、説明し、契約書を取り交わしたにも関わらず、です」





「まぁこの取り交わしは、私の個人的なIT業界への要望でもある、私が依頼した仕事が中抜きされて安い給料で働かされる若者が出ないようにしたいんだ」





「その社長のご配慮を、土足で踏みにじる様な契約違反・・・・到底許されるはずもありません、法務部に連絡してしかるべき対処をすべきかと」





徐々に語気を強め、秘書は男を睨みつける。

さっきまでの威勢はどこへやら、滝のように汗を流し縮こまる。





「こらこら、あまり、先方を威圧するものじゃないぞ」




美空社長は

秘書を制止し、男に駆け寄り、

頭を下げ続ける男の耳元にそっと囁く。




「そちらにも言い分があるだろう、まずは話し合いの場を設けよう、こちらから御社に伺うが・・・日取りは何時がいいかな?」




その言葉を聞いた瞬間

男の顔は大きく歪み、発狂する。



「あひゃひゃ・・・ああああああああああ」



叫びながら人を押しのけて事務所の外に逃げていった。






$$$







結局、

「契約違反だ、どう責任とるつもりだ」と叫んでいた本人の方が

もっとヤバい契約違反をしていたという話



小判鮫株式会社のこの専務、

相当今まであくどいことを繰り返していたらしく

余罪が出るわ出るわ

聞くところによると、即刻会社を懲戒免職にされて、現在は刑事告訴も検討中だそうだ。




悪い事はするもんじゃないなと改めて感じる一件だった。







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