C-4「突撃! デスフリゲート!」

今俺たちは船にいる。船はまっすぐ目的地に向かってドリルのように突き進んでいる。デスゲーマーの一人の知り合いに船を貸してくれる者がいたようだ。


「釣り、頑張ってきてよ」

乗船時、船を貸してくれたおじさんはにこっと笑った。まさかこれが戦闘に使われるとは思っていないだろうに。


「なんか嵐が来るかんじ」

薫が天を仰いだ。あれから少し経ってリハビリも終わり、立って歩けるようになっていた。とんでもない回復力だと医師は言っていた。天はどんよりしている。波も荒い。ただここにいる人間の熱意というのは、このどんよりとした天気をも吹き飛ばしてしまう程のものだった。

「緊張してきたな」

渉が話しかけてきた。眉間にしわが寄っている。

「ああ」

「てかあの人誰?」

渉が甲板の向こう側にいる帽子をかぶったサングラスの男を指さした。

「え、忘れたの?」

あの人はかつて殺し屋と間違った同じアパートの住人である。ツルピカの。


 驚いた。スキンヘッドの男は実は武器を扱う会社の役員だった。彼はデスゲーマーたちによって拉致され、会議室にやってきた。ちょうどそれぞれ向かう現場を決めた後のことだ。


「おい、な、何すんだよ! な、なんだ」

アイマスクを付けられたスキンヘッドがやってきた。いや、引きずられてきた。4人くらいの男たちに腕を捕まれている。

「アイマスクをとりなさい」

二里さんが冷静な顔つきで言うと、男がスキンヘッドのアイマスクを取った、

「どこだよ、ここ!」

と言った。

「ここはデスゲーマーの基地」

「デ、デスゲーマー!?」

見てはいけないものを見るかのようにして彼は視線を反らしたが、逆に俺たちの方を見てしまった。

「え、お前らなんで?」

「単刀直入に聞く」

男が彼の首を二里さんの方に無理やり捻じ曲げた。彼はうめいた。

「あなた、殺し屋組織の拠点に武器を提供しているのよね?」

「え、それはその――」

「早く答えろ!」

男たちが彼の首を絞めだした。

「はあ、やってますやってます。お前苦し――」

「じゃあ拠点の情報を全て答えなさい! いい? 全部よ。さもないとあなたを硫酸の間に迷い込ませるよ」

「ひええ」

 すっかり参ってしまったスキンヘッドは洗いざらい船のことをしゃべった。どうやら船はデスフリゲートと呼ばれているらしい。



「ほう、そうかあの人か。帽子被ると意外とわかんないもんだな」

「それにしても覚えてなさすぎでしょ」

 緊張で記憶が吹っ飛んでしまったのか、渉はぼんやりとしている気がする。アームストロングを追ったときとはまた違う、一段と違う緊張感があった。目の前の狂い合う波しぶきに飲み込まれてしまうんじゃないかと思うほどだ。

「なあお前笑ってねーか?」

「え、なんで?」

「なんでってお前に聞いてんだよ」

渉は俺を見て不思議そうな顔をした。笑ってる? なんでだろう、わからない。



 船はデスフリゲートをレーダーで探しながら、ますますうねりを伴っていく海を突き進んでいた。

「あ、雨」

ふと甲板に雨の点がついたかと思えば、次から次へと点は増殖していった。みんなが船内に入ったときにはついに滝のような雨となった。

「あー、これじゃ航海もままならないよ」

薫が嘆いた。

「いや、逆に敵に見つかりづらいからいいんじゃない?」

「確かに」

薫は俺の意見に妙に感心したようだった。


 着信が届いた。二里&三上チームからだ。

『いよいよ我々は某腐敗警察に突入する。フリゲート攻撃部隊は警察の連絡網遮断の報告を合図に作戦を開始すること。いいね?』

「了解」

二里さんに薫が答えた。

『あとPENGURIN、リハビリ直後なんだからなるべく戦闘は控えてよ』

「了解」

薫はこっちに向かって笑顔でピースしてきた。戦う気満々じゃん。

『みんな、僕はお父さんに会いに行くよ。真実を知りたいからね』

三上先輩だ。

「生きて帰ってくださいよ」

『もちろん』

『ちょっと! 私用の連絡は謹んでちょうだい、じゃあ行くよ。作戦十秒前

……』

 向こうのことなのにこっちにも緊張感が伝わってくる。胸がグイッと押し込まれる。どうか、成功しますように。

『3……2……1……』

『GO!』


 途端に爆発音がした。

「ん? 爆弾って使うんだったっけ?」

薫が首をかしげた直後に銃撃音が鳴り響いた。

『くっ、くそっバレていたか』

二里さんが必死の銃撃を行う音が聞こえる。

「もしかして」

「まさかなあ」

渉が青白い顔をした。悪い予感は当たっていた。

『PENGURIN、奴らが銃撃してきた。計画はバレていたらしい』


 それと同時に遠くの方からも大砲の音がして近くの海で水しぶきが上がった。

「マズイだ!」

船を運転するデスゲーマーの女が大きく舵を切って急発進したため、船体は大きく揺れた。みな椅子から転げ落ちた。

「始まった。みんな行くよ」

薫が言った。

「でもまだ連絡網が」

「それどころじゃない。奴らはすでに我々の動きを知ってる。作戦変更だ」


 船内にいた、俺たちを含むデスゲーマーたちが拳を突き上げ、おうっと言った。渉もしぶしぶ手を上げた。



 飛ぶように走る船内から徐々にデスフリゲートの全貌が見えて来た。その様子は一見ただの観光船だった。6階建ぐらいだろうか。あそこにアームストロングやかおりを殺したヤツがいるのだろうか。そう思うと腹の底からうねりうねりと何か禍々しいものが湧き出てくる感覚を覚えた。


『No2、No3おとりを始める!』

「了解! こちらは侵入準備を開始する!」

薫がトランシーバーに向かって叫んだ。いよいよ上陸か。肩を叩かれた。振り返ると渉だった。

「いよいよだな」

「ああ」

二人はそれだけ交わすと互いの目をじっと見た。お互い不安を打ち消そうとしているようだった。


 ゴトンと船体がまた左に傾いた。それと同時に右側に大きな水しぶきができた。


「くそっ、おとりが上手くいってないの?」

一同不安の表情を浮かべた。希望が絶たれた気分だった。そのとき、薫が持っていたスマホから、大きな爆発音が聞こえてきた。

「な、何?」

まさか、そんなことはないよな?


『連絡網、破壊成功!』

SHORT の声だ! やったのか!一斉にみんなが歓声を上げた。

「すごい!」

「やったぜ!」

「マジか!」

躍り上がっている者もいる。この船の中だけ台風の目にでもなったんじゃないかと錯覚するほどだ。


「おい! みんな、あまりはしゃぎすぎるなよ」

そう言いながら薫はにこやかな顔でいる。

「もうすぐ上陸だ」

「まもなく敵の船体、目標地点です!」

「さあ行こう!」

「え、本当にあの作戦使うの?」

渉が訝しげな表情をした。

「もちろん他にないでしょ」

ありえない、と言いかけたがそうだ、この人は壁をぶち破った人だ……。


 敵の船は自分達が乗る漁船に比べてとてつもなく大きい。そして今この船はその船体に向かって突き進んでいる。


「行きます!」

航海士が操縦桿を文字通り引っ張り上げた。すると船が大きく揺れた。爆風。あたり一面煙になったかと思うと、船がふわっと浮いた。そして辺りは真っ暗になった。

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