B-6「第2ミッションSKP VS スナイパー集団④」

「え、ええ……」

目の前には倒れた女。その前にしゃがみこんでいる薫。ビビる俺。

「そこにいるんだろ!」

薫は叫んで今度は少し回転扉をくぐったかと思うと、体をのけぞらせて銃を石像の上の方へ向けて撃った。


 向こうからも弾丸が撃たれたようで彼女はさらりと回転して外に出ていった。

銃撃戦だ。これが本当の……。足がすくむ。かおりはこれに巻き込まれて……。


 いや、今はそんなことを考えている場合ではない。生きねば。もちろん2人で。


 俺も回転扉を少し開け様子を伺った。目の前にスナイパーの女がいる。No1の片割れだろう。

 スナイパーの女が避けて、銃撃する。俺は引き金を引いた。それに気づいたスナイパーがこちらに銃を向ける。危ない! 慌てて身を隠す。弾はヒュンっと音をたてて回転扉を直撃した。心臓がバクバクしてきた。


「お仲間はそこにこもりっきりかい? 卑怯だねえ」

「あんたもずっと私たちを待ち伏せしてたくせに」

「まあいい、とっとと殺してやる!」

 再び銃撃の応酬が始まる。さっきので様子を伺うのが怖くなってしまった。熊を目の前にしたかのように体が縮みあがってしまっている。ただこのままだと薫の命が危ない。なんでもいい、乱れ撃ちだ!


 回転扉から銃口を出して引き金を引きまくった。


「わ、わ、わあ!」

「ハハハハハ! 味方に撃たれるとはねえ」

 まずい、今度はそこにいたのは薫だったか! 二人は石像を中心にして円を描くように動いていたのか!


「あとはコイツをやるのみ!」

 回転扉が開いた。目の前に女スナイパーの顔がある。女は引き金を引いた。俺は目を塞いだ。銃撃の音がする。俺は今度こそ死ぬのか。今度こそ……?


 目の前で倒れる音がした。目を開けると女が倒れていた。その奥には……


「薫!」

尻餅をつきながらも銃を構えた薫がピースした。

「薫、大丈夫か?」

 駆け寄ってみると、足をやられている。さすがに流血は避けられないようだった。肩で息をしている。 

「止血しないと……、どうしよう」

「私のこと置いて先に行った方がいいんじゃない?」

「なんてこと言うんだ」

倒れている女の防護服を脱がそうとする。上手く脱がせない。

「コイツらを倒せただけで十分だよ。最悪もう死んでもいい」

「はあっ? さっき一緒に生き延びようっていったじゃないか?」

やっと防護服が脱げた。薫の傷口に巻いていく。

「いやもう戦力ならないよ。撃たれちゃったし、致命傷じゃないけど」 

「撃っちゃったのはごめん」

「それは別にいいんだけど」

薫はいたって冷静な感じだった。もう諦めているような感じ。

「ダメだよ! 生きないと! デスゲーマーじゃない人生送れないよ!」

「無理だよ」

「無理じゃない」

「無理だよ」

「無理じゃない」

あはは、と薫は笑った。何がおかしいんだ?

「信、変わったね」

「え?」

薫は微笑みながら、

「じゃあそこまで言うなら、お荷物になるけどいい?」 

と言った。

よくわからないが俺は大きく頷いた。

「うん!」

「犬みたいだ!」

と言って彼女がまた笑い出した。俺もつられて笑った。


 それも束の間、遠くの方から、

「うわあああ!」

という声がした。 


「渉だ!」

2人は顔を見合わせた。薫が立ち上がろうとして、

「イテテテ」と足をさすった。

「大丈夫? 走れる?」

「走るのはキツイかも」

「じゃあ……」

バカな考えが頭に思い浮かんだ。後で殴られるかもな。俺は前傾姿勢になった。

「え? もしや」

「おんぶするよ」

「この状況で?」

薫さん、口開いたままですぜ。


「仕方ないだろ? これ以外ないんだから」

「まあ……いいか……」

銃をポケットにさし、薫はよろよろと俺の背中に倒れ込んだ。

「お――」

「重いって言おうとした?」

「してない、してない」

俺は走りだした。


 渉はどこにいる? 銃撃の音がする。あっちだ。階段を上ったり下ったりしていくと大きな広間に出た。

「ここは!」

 背中の薫が叫んだ。上から下へと段々畑のように席が広がっている光景。そして下の方にある黒板と教壇。

「大講義室だ」

そう、紛れもなくここはあの日の大講義室なのだった。ただいつもと違うのは窓が無く、何もかもコンクリートでできているところだ。


「なんか不気味」

「そうだね……」

いつも行く場所が少し違っているという違和感が胸を気持ち悪くさせる。


 上の方に上った時、後ろから

「助けてくれ!」

と声がした。


 薫のいる分ゆっくりと振り返ると、スナイパー二人に取り囲まれる渉がいた。さっき見たときは教壇には誰もいなかったのにいつの間に。渉は襟を捕まれ、銃を向けられていた。


「離せ!」

背中の薫が叫んだ。

「そうだ! 渉を人質にとるなんて卑怯だぞ!」

「あんたに言ってんだよ」

薫が俺の背中を叩いた。

「あ、ごめん」

俺は手をゆるめて彼女を降ろした。


「お前ら、一歩でも近づいてみろ。こいつの首は一瞬で吹き飛ぶぞ!」

スナイパーがニタリ顔で言った。渉は顔を引きつらせて動かないでいる。


「くっ、どうしたらいいんだ……?」

「信、私に案がある。できるだけ会話して。あんたにしか視線が向かないような爆笑トークでもやって」

「はあ?」

「じゃ、そういうことで」

 彼女がしゃがんだ。スナイパー二人は彼女の行方を目で追おうとする。なんとか気を引かせなければ。


「あ、あのー!」

スナイパーたちは見向きもしない。渉がうなだれているだけ。だめだ。即興でしゃべれなんて言われても何をしゃべればいいんだ?


「お前たちはなんてことをしてるんだ! 恥ずかしくないのか?」

「お前デスゲーマーだろ、お前こそ恥ずかしくねえのか?」

くうう……。ぐうの音も出ない。


「罪のない人間を殺す殺し屋の方がおかしいだろ!」

「俺たちは依頼を受けてやってんだよ、文句言うなら依頼主に聞けよ!」

ううん……。そうなんだ……。


「へっへっへ、みーけっ」

「ぎゃあ、離せ! 離せ!」

 なんと薫がスナイパーに捕まっている。こっそり机に隠れて前進するはずが、もう一人のスナイパーも同じことを考えていたらしい。

「うわ、結構かわいいじゃんか。おう、俺と夜の相手してくれるんだったら生かしてやってもいいぜ」

「嫌だ! 気持ち悪い!」

どうしよう。薫も捕まってしまった。

「さあ、お前どうする? 今なら自分で死ぬこともできるぜ、ひひひ」


どうすればいい? どうすれば……?


 その時、地面が大きく揺れた。地面といってもここはおそらく地下だからか四方八方から轟音をたてている。思わず、よろけてしまう。敵方も同様でこの隙をついて薫がスナイパーに平手打ちを食らわした。スナイパーは頭から倒れた。


 渉の方はのっそり赤ちゃんのようにはいはいしながらこっちに登ってきた。その後ろをスナイパーががっちり抑えた。


 いったいこの地響きは……?


 途端に銃撃がした。渉を狙っていたスナイパーが倒れた。後ろを見ると、そこには二里さんがいた。さらにその後ろにはフワフワヘアーのこの人がいた。

「三上先輩!」

先輩は手を振って応えた。

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