B-5「第2ミッションSKP VS スナイパー集団③」

「な、何ここ」

石像の中の暗闇。震える薫の声に向けて、

「静かに」

と言うと、声は黙った。


 足音が近づいてくる。

「くそっ、巻かれたか」

「そっちが恋バナ始めるからでしょ」

「あんたも乗り気だったけどね」

「まあね」

 石像のすぐそばをNo1たちが歩いているのがわかる。今度こそやらなきゃいけない。俺は回転扉の方へ銃を向けた。薫も同様に銃を向ける気配がした。


 回転扉を開けてしまおうかと思ったが、薫が腕をつかんで止めた。スナイパーの二人はどこかへ立ち去っていった。


「はあ……やばかった」

と安堵の声を上げて銃を下したのもつかの間、

「よかったー!」

と言ってなんと薫が俺を抱きしめてきた。

「う、わ! どうした?」

「あ、えっと」

彼女は即座に俺から離れた。

「びっくりした……」

「悪い悪い。生きててよかったって思って……」

「泣いてるの?」

「な、泣いてない……」

そう言いながらも彼女の声が震えている。

「俺もうれしいよ。さっき倒したやつらが無線でもう少しで誰かを倒すっていうのを聞いてたからさ」

「た、倒したの?」

「倒したけど」

「ええ! すごいじゃん! ここにいるのはおそらくだけど凄腕のスナイパーだよ!」

「ま、まあね……」

 声だけでも彼女の興奮が伝わってくる。男たちが喧嘩しているのを物陰から撃ったという事実は墓場まで持っていこう。

「私は全然命中しなかった。一応戦ってはいるんだけど多勢に無勢だから結局逃げるばかりで」

「そうか……」

 第一ミッションのときは明らかに心が弱ってたからな。そんな状況ではまともに戦えないだろう。それでも戦っていたのか。こっちはロッカーに閉じこもろうとしていたのに。胸がズキッとした。


「逃げている間さ、考えてたんだ、いろいろと……それで本当に……」

そこまで言って彼女の声が詰まった。何を言い出すんだろうか。

「ごめんなさい!」

そこから彼女は弾丸のようなスピードで、

「私が信と九堂を巻き込まなければこんなことにはならなかった。いろいろと任務を課したり、疑いをかけたりして迷惑かけたせいでこんなことになっちゃった」

と言った。驚いた。内容よりも彼女が謝ったことに驚いたのだ。この人はどこか相容れない人間だなという感があった。その正体に今気づいた。どんなに俺が危険な目に合っても彼女からは何の一言も無かったのだ。


「私、正直仲間なんて利用するものだって思ってた。どうせ裏切られるし。デスゲーマーの世界って命の重さがだいぶ軽いじゃん? だから私のことちゃんと見てくれてる人なんていなかった。両親のデスゲーム運営に合わせて学校はひたすら転校、機密があるから家には誰も呼べない、訓練があるから遊びにもいけない。当時はそれが普通の生活だった。みんな私を怪しんで遠巻きにして……気づけば人間不信になってた」

何の言葉も出ない。

「信も最初は利用するだけの存在だったんだけど、何度私が失礼な態度とってもちゃんと私に向き合ってくれたんだよね。しまいには友達になりたい、救ってやりたいなんて言ってきて。なんかヒーロー気取りでウザイなーって思ったけど」

「……」

「気づけば泣いてた」

あの涙はやはりそうだったんだ。彼女はやはり孤独と戦っていたんだ。

「今までの私は嘘つきだった。本当はデスゲームなんかしたくなかった。普通の人間として生きたかった。でももう手遅れだね」

「手遅れなんかじゃない!」

 今は声が漏れ聞こえようがどうでもよかった。それほど心の奥底の炎が燃え上がっていた。

「今からやり直せる! まだ俺たちは若い! このデスゲームを生き延びて、悪いやつら全部捕まえて、そして元の生活に戻ればいいんだ! 悪人がいるからデスゲームをやるんだろ? じゃあ悪人を全部捕まえたらいいじゃないか! デスゲームをやる必要もなくなる」

我ながらいいことを言った。そう思っていたら、

「信、なんか別人みたいだよ」

と薫が言った。

「そうかな。あれ、また泣いてる?」

「な、泣いてない」

そう言いながらも彼女は鼻をすすっていた。その背中を優しくさすってやった。


「そ、そうだね。信の言う通りだ。私たち、生き延びないとね。そしたら」

薫の吐息が間近に迫ってきた。胸がドキンとした。

「友達になってくれる?」

「もちろん」

俺は即答で答えた。

「じゃあ、いつまでもしちゃいられないね」

「ああ、でもちょっと待って」

俺はスマホを取り出した。2人の顔がぼんやり暗闇に浮き出て見えた。顔たちは非常に勇ましいライオンのような顔つきだった。

「三上先輩から連絡が来たんだ。二里さんといるって」

「あ、私の方もTWOVILLAGEから来てたよ」

薫もスマホを取り出す。

『どこにいる?』

『早く教えろ』

とあった。

「教えてあげなよ」

と俺が言うと、

「救援だろうなって思ったよ。でも手柄を立てて出し抜くはずだったんだもの。悔しいから返信しないでしょ、普通」

と彼女はつんけんどんに言った。

「そうかな。まあよくわかんないんだけど、部外者のはずの三上先輩が二里さんと協力して僕たちを助けようとしているんだよね多分」


 スマホを見ると、『もっとそこの特徴教えてくれる?』と某漫才師みたいな返信が来ている。

「ここの特徴ね……」

「地下迷宮ってことぐらいしかないよね?」

「なんかさ、途中黒板なかった?」

「あった、あった! あ! ここ、石像」

「石像! あっそうだ!」

黒板、両手を上げて片膝を上げている石像といえば……。


「「大学だ!」」

俺らは顔を見合わせて叫んだ。そう我らが通っている大学に似ているのだ。なぜ似ているのかは謎だが、大学の構造を参考につくられていることは間違いない。

俺は興奮気味にスマホを操作した。

『大学にて』


「よし、送った」

「じゃあ九堂を見つけてとっととこのゲーム勝利しますか!」

「そうしよう。そういえば」

回転扉に銃を向けながら進もうとする薫に尋ねた。

「なんであの時、俺だけを呼んだの?」

アームストロングに捕まる直前のことである。

「ああ、あれね。LONGを見失ってどうしようと思った時とっさに思いついたのが信だった。もしものことがあったとき全員捕まったらいけないと思ったし、捕まったとき傍にいるのは信の方がよかったから」

彼女はちらっと笑顔を見せた。

「まあ捕まっちゃったけど」

そう言うと、回転扉をバッと開けた。その瞬間薫は引き金を引き、銃を連射した。

連射が終わった後、向こうにはスナイパーの女が倒れていた。


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