B-4「第2ミッションSKP VS スナイパー集団②」

俺は薄暗い廊下をひたすら走り続けていた。


 恐ろしかった。とんでもない量の自分に対する憎悪が襲ってきた。胃がキリキリする。そこまでやる必要は無かったんじゃないか?


 いや、おそらくそうしなければ見つかって自分の方が死んでいたかもしれない。あれはしょうがなかったんだ。しょうがなかったんだ。


 卑怯だったのでは?


 いや、このデスゲームにぶち込まれてしまった以上、時には戦略も必要なんだ。


 そう思ってくると、自分のある1部分がものすごく膨張してきている感覚を覚えた。走りながら、自分は弱肉強食社会を生き抜くトラになっているという風に感じていた。仕留められるのに怯えるんじゃない、しとめてやるんだ。そして全員で生きて帰る。アームストロングを捕まえる。かおりを殺したヤツにかたき討ちするんだ。そうすれば無力な自分からも脱却できる。変わることができるんだ。


 目の前に階段がある。一気に登っていく。どんな奴が来てもぶっ倒してやる……!


 大広間のようなところに来た。地面が円形になっていて四方に道が枝分かれしている。天井はドームのようになっている。真ん中に変な石像がある。人の形をしたこの像は両手を上げ、片膝を上げている。ん、どっかで見たことがあるような……?


 スマホが震えた。確認すると三上先輩からだ。ここは電波が拾えるのか。


 それと同時に足音が聞こえた。石像の裏にへばりつく。途端に石像の壁が回転した。石像の中に入ったのだ。あの男たちが言っていた通りギミックがあったんだ。


「PENGURINはどこにいったのかしら?」

さっきのNo1だ!と言いそうになって口を塞いだ。

「どうだろう。わかんない」

女性ペアのようだ。

「No2は殺されたのか?」

「わかんない。まあ多分そうだけど」

「応答ないからな」

「わかんない、わかんないってあなたいつもその調子ね。やる気あんの?」

「いくらなんでも夜にやることないじゃない。どんだけ訓練しても眠たいもんは眠たいし」

「まあそうだけど、あなたそんなんでやっていけると思ってんの?」

「生理現象だし、仕方ないでしょ!」

「はっ……ったく、早く終わって欲しいな」

「あんたもやっぱりそう思ってるじゃない!」

「No3の彼に会いたいんだもん。早く」

「私よりもやる気ないじゃないですか」

 さすがにさっきみたいに決闘はしないらしい。足音は遠くの方に消えていった。回転扉を使って石像前に出る。スナイパーたちはこのギミックを把握しているのだろうか、そして恋の行方は?


 いやそれどころじゃない。三上先輩から何かまた来ていたんだ。スマホをチェックする。

『今いる場所の特徴を教えてくれ。正直に』

 さっきと似たような文章だ。今日彼との約束は無かった。つまりこれは何かしら意図して送ってきている。彼はデスゲーマーを追っていると言っていた。そして自分たちは殺し屋に捕まっている。ただ体裁はデスゲームだ。世間的には殺し屋もデスゲーマーということになっている。ということはデスゲーマーに連れ去られた俺たちをたまたま見た三上先輩が正義感で助けにこようとしているのではないか?


 足音だ。とっさに部屋に逃げ込む。正面衝突では勝てない。ちょっと卑怯なやり方でもしないと。部屋はいくつも机と椅子がならんでいる。目の前には黒板がある。なんで黒板?


「ん? 誰かいるのか?」

さっきのNO1たちの声だ。急いで近くにあった机の下に隠れる。


 2本づつの足が入ってきた。

「あー眠い、眠いめちゃくちゃ眠い」

「うるさいな」

「眠たいんだもん、寝ていい?」

「良いわけないだろ。もしここに敵がいたらどうするんだよ」

ギクッ。全身の毛が猫みたいに逆立つ。

「まー確かに。寝てる間に撃たれて死んだら恥ずかしいか。えっへっへっへっへ」

「ハアー。あんたは呑気でいいね」

よりにもよって俺の斜め前の席に二人が座った。

「あ、そうだ。そんなに会いたいならさ、NO3に無線で連絡したらいいじゃん」

「嫌、嫌あんな奴らのように敵追っかけてる途中で無駄な無線繋ぐっていうの? 迷惑じゃん」

「ホントはやりたいくせにー」

 また恋バナをしている。もしかしてそんなに歳変わらないのか? 無線をしてくれるならまた情報が得られるかもしれないからありがたいのだけど。


 どうやらしばらくここから動かないつもりらしい。話がだんだん刺激的になってきた。途端に耳がリスニングテストの時以来の精度になった。そういえば三上先輩に返信していない。スマホ操作はそれほど音を出さないから今のうちに送っておこう。

見るとヤンデレのごとく大量のメッセージが送られてきていた。

『大丈夫?』

『早く返事して』

『二里さんといます』

『ほんとに早くして』

『生きてるよね?』

なんかしれっと恐ろしいこと書いてるぞ。あのパワハラ上司といるってどういうこと?


ピポピポピロリン♪ピポピポピロリン♪


「な、なんだ?」

「電話ですか?」

「いや、違う、ここにもう一人いる」

急いで着信拒否を押す。胸騒ぎがする。ちょ、ちょ、三上先輩、なんとこの状況で通話しようとしてきたあ!


「探すぞ」

「もちろん」

 さっきまで結構エグイ話を展開していた二人だったが、席を立って急に戦闘モードとなった。ちょうど足が自分のすぐ横を通過していくのがわかる。はらわたが煮えくり返りそうだ。体操選手の鉄棒並みにぐるぐる返りそうだ。


「どこだ! 大人しくでてこい! いるんだったら真剣に勝負しようじゃない!」

 うわーまずい。さっき恋バナしてるときに撃っとけばよかったのに。せめて二人が経験豊富じゃなければここまで刺激的じゃなかったろうに。心臓の鼓動が高まっていく。どうするんだ。このまま出て行っても2対1で堂々と死ぬだけだ。かといってここにいても生きていられるのはあと数分だろう。ということは……。


 ひらめいた。今彼女たちは自分よりも黒板の側にいるから……。


 黒板めがけて銃を撃った。

「何?」

今だ! 急いで中腰のまま後ろの方へ走り去る。

「あ、いたぞ!」

あ、普通にバレた! そりゃ撃った方向も見るか!

ならもう走るだけ。走りには定評があるんだ。


 全ての元凶である三上先輩に『デスゲーム、建物の中』と返信しながら廊下を無我夢中で走り続けた。


 途中弾丸が左右を貫いていった。ここは少しジグザグに走ってみる。この距離ならプロでも当たらない。


 広場に出た。例の石像がある広場だ。あそこに隠れるか。見ると向こうからも人間が走ってくる。

「信!」

「薫!」

「ここに!」

薫の手を引いて回転扉に体を押し込んだ。





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