B-2「第1ミッション~暗闇地雷と教授の耳~」
『第一ミッションはこれ! 地雷が置かれた暗闇の中を歩け!』
アームストロングが拍手をした。
こちらは微動だにせずにモニターを見つめている。
『ルールは簡単、そこのドアから次の部屋までに長い廊下がある。そこを歩くだけ。もちろん地雷がところどころにあるからみんなもう死んじゃうかもね』
アームストロングがニヤリと笑う。
「みんな、絶対生きようぜ!」
渉が劇を飛ばす。一方で薫は茫然と突っ立ったままだ。
「これが噂のデスゲームか。君たちがどういう状況に立たされているのかはわからんが、こんなことで私は死にたくはない。そうだ、ここは私に任せなさい。なんせ私は耳が良い」
教授は自分の耳を指さした。
「爆弾の気配がわかる、私の後をついてくれば必ずや生きて帰れる」
「本当ですか?」
と俺が言うと、
「そうだ、私は幾たびも難所を生きてきたのだ。沈没する豪華客船、マラソン大会での連続爆発事件…。なんせ私は耳がいいからな」
と教授は胸を張って答えた。
「よし、じゃあ行きましょう!」
教授と渉がそろってドアを開けようとした。薫はじっとしたままだ。
「薫、大丈夫?」
「……」
「どうした? 早くここから出ようよ」
俺の問いかけにも答えず唇を噛んでいる。
「どうしたんだ? 信、俺と別れた後なんかお前やったのか?」
「やってないよ何も」
「な、なんでもない、行こう…」
薫はボソッと呟いた。
「明らかにおかしいぜ。さっきまでの元気はどうしたんだ?」
「なんでもないって!」
渉に向けた表情、あの時と一緒だ。
「薫、それはなにかある顔だよ」
「ほら、行こう。早く出よう」
薫は俺の問いかけには答えない。
「そ、そうかじゃあ行くか」
「私に任せなさい」
教授が薫を勇気づけようとした。彼女は黙ったままだった。
4人はドアの先にある暗闇に足を踏み入れた。
「さあ、私の後ろにつかまって」
「はい」
渉が教授の後ろに続き、その後ろに俺が続き、その後ろに薫が続いた。
「ここいらから音がする。こちらは避けよう」
「地雷から音って出るんですか?」
左に曲がりながら渉が聞いた。
「そうだな、音というより気配がするという感じだ」
「そりゃすごい」
その後はみんな押し黙って暗闇を進んでいった。
アームストロングの策略もむなしく、ハイパー聴覚の教授のおかげでサクサク進んでいく。本当に地雷など埋められていたのだろうか、ただの脅しだったのかもしれない。
「はっはっは、どうだ。私の聴力は?」
「すごいっす」
「だろだろ」
おそらく今教授は胸を張っているのだろう。立ち止まっている。
「こんなの楽勝――」
目の前で爆音が鳴った。一瞬目の前が白み、大男が倒れるのを見た。ドサっと音がした。
「先生?」
『オホホホホ、楽勝だったんじゃないの? そこにあったのはシンプルな爆弾、床を踏むとスイッチがつくシステムね』
どこからともなくアームストロングのスピーカー越しの声が聞こえた。
「せんせーい!!」
渉がかがみこんだのでつられて渉の服を引っ張っていた自分もしゃがんだ。真っ暗だから目の前の光景はよくわからない。ただ渉が何度呼びかけても返事をしないことは確かだ。
アームストロングの含み笑いが響き渡る中、しばらくして渉が
「冷たい」
と言った。
「私のせいだ」
「え?」
今度は薫のか細い声が聞こえた。
「私のせいで死んだんだ」
「薫が殺したわけじゃないだろ!」
「私がみんなを巻き込んだんだもん! 私のせいでしょ!」
「何キレてんだよ」
一気に気まずい雰囲気になった。空気をわざと読まないかのようにアームストロングが、
『あーれえー? 仲間割れえー?』
と言った。
「確かにお前が俺たちを巻き込んだかもしれねーけどさ、もうデスゲームにぶち込まれたんだから仕方ないぜ。今更そんなこと言ったってオレたちはここを生き抜くしかないんだ!」
「渉の言う通りだよ、今は教授の分まで生きることを考えないと」
「う、うん……」
らしくない。本当にらしくない。ターゲットに打ち負かされ、逆にデスゲームに入れられたことが余程悔しかったのだろうか。それにしても元気がなさすぎる。
「さあ、ここからは勘でいくしかない。さあ行くぞ」
薫は返事はしなかったがしっかりと背中をつかんできた。少女が父親の背中をつかむようなほどの依存的なつかみ方だった。俺も渉の背中をつかんだ。
進み始めた。教授の亡骸に別れを告げて。一行は一寸先の恐怖へ向けて行進していた。その姿はまさに死者の行進といえるほどだったかもしれない。ただ「生きたい」という思いと、
「ずっと監視しているアームストロングを打ち負かしてやりたい」
という意思があった。
『オメデトー! いや我々的には面白くないんだけどね、第一ミッションクリア! 3人も! やるわね』
教授のおかげで地雷廊下のほとんどは制覇していたらしい。わりとすぐに明るい部屋にたどりついたのだった。
部屋は縦に長い感じだ。先ほどの部屋同様、蛍光灯、モニター、窓無し、コンクリートの壁と床である。
『さあ、第2ミッショーン!』
「ちょっと待ってくれよ、休憩させてくれよ」
『ええ…、つまんないねあんたたち。観客が見てるのに役者が舞台の上で休憩してることなんてあるの?』
「それは…」
渉が言い淀んでいるので、
「あるよ! 前後半に分けて途中トイレ休憩みたいなやつ」
と助太刀してやった。
「え? そうだっけ?」
渉がきょとんとした。
「なんか校外学習みたいな感じで行ったことないの?」
「ええ? 舞台見に行くことなんてあったけ?」
「高校まで違うから知らないけど」
『おーい!』
置いてけぼりのアームストロングが叫んだ。
『もうその話はいいわ、もう十分休憩したね。まああとどれくらい生きてられるか自体怪しいけどね。てか薫ちゃーん、あんたさっきから喋ってないけどどうしたのかな?』
残酷な小学校の先生みたいな問いかけに、薫はたじろいだ。
『デスゲーマーともあろうものが、もしかしてビビってるの?』
「違う」
薫は歯を食いしばった。
「そんなわけない。デスゲーマーはいつ死ぬかどうかわからない人間、死への恐怖は超えているはずの存在……」
アームストロングに言っているというよりかは、自分に言い聞かせているような感じだ。
『じゃあなんでそうしてるの?』
「それは…」
『ああー、めんどくさい! 第2ミッションスタート!』
「え? ちょっとま――」
突然床が回転扉のように動き出し、大穴が開いた。
避けれるはずもなくみんな真っ逆さまに暗闇に落ちていった。
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