GAME : B「逆デスゲームを攻略せよ!」
B-1「逆襲」
パシュンッ!
弾丸が目と鼻の先を通過していった。地面を見ると本物の弾丸だった。
「いや~あっぱれだったね~」
女性の声がした。その方を見るとなんとそこに松井純子が立っているではないか。
「え? どういうこと」
「どういうことも何も」
松井はピストルを突き出し、俺たちの方に向け、
「こういうことなのよ」
と言った。
「え、じゃあコイツは――あ!」
薫が網にかかった人物を見た。よく見ると、別人だ!
「若い子たちだから遠目でも分かるかなってヒヤヒヤしてたけど」
松井はニヤニヤした。
「わかんないものねえ」
「く、騙されたか」
「ふふ、騙されたのはこれだけかねえ」
松井の背後から男たちが現れた。LONGと銃を持った知らない男数人だ。
「LONG、グルだったの⁉」
泣き叫ぶような薫の声に、LONGは鼻の穴を膨らま会釈した。彼は縄で拘束されたSHORTとあの男を連れていた。
「渉!」
「信……」
「スーパーに行ったら従業員に殴られて。気づけばこうだ」
「まあ、まんまと我々の計略に引っかかってくれたみたいじゃない」
松井は御満悦の表情だ。
「じゃあもしかしてSHORTさんが途中でいなくなったのも」
「すみません、捕まりました」
SHORTが申し訳なさそうな顔をした。
「そんな……」
薫は口が開きっぱなしだ。口がモゴモゴしている。何かをしゃべりたそうだが言葉にならないという感じだろう。
「それもこれもあんたたちがベラベラ喋っていてくれたおかげよ。私の隣の部屋で」
やっぱり気づくのが遅かったか。きっと今まで部屋で起こったもろもろのことが盗聴されていたのだろう。作戦のことも、喧嘩したことも何もかも……。
心の中がえぐられる感じがした。覗きたくないことも覗かれてしまった。本気でぶつかったあのときのことをコイツはほくそ笑んで聞いていたのだろうか。
気づけば拳を握っていた。はらわたが煮えくり返り、血の巡りと共に形容しがたい複雑なエネルギーが全身を駆け巡った。薫も同様のようだった。歯を破壊してしまうのではないかと言うほど食いしばり、松井をにらんでいる。
「何よ? 言いたいことがあるならいいなさい。これがきっと最後の遺言になるんだからね」
「死んでたまるもんか」
「あはは、そりゃあ恥ずかしいものね。捕まえようとした殺し屋に殺されようとしてるのだから」
松井は薄汚い笑顔でケラケラ笑った。
「さあ、お前らやっちまいな!」
男たちが前に出た。
薫がピストルを構えた。自分もおもちゃだが構えた。死に対する恐怖よりも今はここを生き抜きたいと強く思っていた。こんな奴らを捕まえてやりたいという思いが強かった。
パンッ!
銃声が鳴り響いた。
薫の右肩を弾丸が貫いた。
「薫!」
彼女の体が崩れていく。渉が目を両手で隠している。
パシュン!
銃撃。針を刺すような痛み。途端に意識がもうろうとしてきた。これが死ぬということなのか……。
目の前の風景が、ぼんやり……していく……
「信!」
渉……声……
もう……ダメ……
「信!」
「信!」
「信!」
「信!」
「信!」
ん……誰かが呼んでる?
「信?」
呼んでるな、俺は死んだはずだ。ということは天使が呼んでいるのか?
「信! 起きてくれ!」
にしては声がだいぶ低いような……。悪魔が呼んでいるのか?
「薫、どうしよう?」
「どうしようってこっちが聞きたいんだけど」
ん? 薫だと? じゃあもう片方は誰だ?
「あ、ちょっと薄目開いたぞ」
「ホントだ! ごこおー!」
目を開けると、そこには薫の顔がドアップになっていた。
「うわあああ」
思わず寝たままに状態で離れようとする。いったいどういうことだ。横に渉もいるじゃないか?
「うわあって失礼な」
彼女は憤慨しながらも、
「大丈夫?」
と聞いた。
「だ、大丈夫ってここは地獄かなんかか?」
「信、お前寝ぼけてるんじゃないか?」
「実際麻酔銃に撃たれたみたいだし」
「ま、麻酔銃?」
「うん、私は右肩に」
薫が包帯を巻かれた右肩を見せると、渉も左脚を見せて
「オレは左脚に」
と言った。そんな某医薬品のCMみたいな感じで紹介されても……。じゃあ自分はどこを撃たれたんだ? 俺は起き上がろうとした。
「イテテテ」
「ああ、ダメダメ。後光はお腹を撃たれてるんだから安静にしておかないと」
「お腹あっ?」
それはともかく。生きていることは確かか。ならよかった。それにしても良く生きてるな俺。
「ここはどこなんだ?」
「ううん、なんだろう。監獄かな? でもどことなく我々が用意するタイプのデスゲーム会場に似てるんだよね」
薫はすました顔で答える。今俺たちがいる部屋は窓が無く、蛍光灯が天井に1つ付いている。コンクリート壁の一方の上側にモニターが付いている。ドアも一つだけある。ただ謎なことに奥の方で大柄のおじさんが寝ている。数秒間見ているとすぐに気づくことがあった。
「あの人もしかして」
「だよね」
「だよな」
このおじさんは大学で受けている講義を担当する教授なのだ。薫と遭遇した時の、渉がLADYの謎を解いたときの教授なのである。
「な、なんでこの人が?」
「さ、さあ...」
SHORTがここにいるのならまだ分かる。どうして教授がここにいるんだ? さっきまでいなかったじゃないか?
「ぐ、ぐむむ……」
肝心の教授が目を覚ました。そしてこれまた数秒間3人と見つめ合った。
「ん? 生徒か?」
「覚えてるんですか?」
渉が聞いた。
「うーん、うるさくしてた生徒とか別のことしてるなとか言う生徒はだいたい覚えとるな、耳がいいんで」
薫と俺は顔を見合わせた。あの距離で注意されるとは思っていなかった上に、覚えられてもいたとは。教授は特に感情を見せることも無く髭を蓄え、大きな図体をしているため森のくまさんのようであった。そして森のくまさんは至極真っ当な質問をした。
「どうしてこうなった?」
『オホホホホホホ!』
女性の声と共に、モニターにアームストロングのニタリ顔が映し出された。
「まっ、いやアームストロング!」
『ホホホホ、薫ちゃん、やっと正しい名前で呼んでくれたみたいね』
「これはいったいどういうことなの?」
『どういうことって、わからないの? いつもやってるじゃない、デスゲームよ』
「え?」
薫は呆然とした。そういうことか。渉も気づき、
「やべえ」
とつぶやいた。教授は眉をひそめてモニターを見つめている。
『あの場所で殺すより、自分たちが本来やる側だった方法でやられるという屈辱を味わせる方が楽しいかなと思ってね』
「な、なんてヤツ……」
薫が拳を固く握った。
『それじゃあ、そろそろデスゲームを始めようね』
アームストロングの高笑いが部屋中に鳴り響いた。
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