C-2「黒服たちの基地の夜と朝」
俺たちはとある一室に連れてこられた。部屋の中は3人掛けのソファがコの字に配置されている。そこにテーブルもあり、後方の棚の上にはコーヒーエスプレッソマシンやらドリンクバーやらが置かれてある。ここにも本棚があり、さっきとは違って雑誌が中心に置かれてあった。
3人はとりあえず好きな飲み物を飲むことにした。ソファに腰かけてゆっくり飲む。かなり深夜であったこともあり、恐怖のデスゲームから解放されたこともあり、みんなかなり眠たそうな感じだった。誰もしゃべらない。
渉はとうとう寝始めた。薫も二里さんも帰ってこないし、外はトイレ以外黒服が見張っているのでこの部屋にいるしかない。なんだかまた別のデスゲームにでも監禁された気分だ。もう寝てしまおうか。三上先輩は雑誌を興味深いという感じで読みふけっていた。
ソファの上で横になり、目をつぶろうとした。足音がする。なんだ、今から寝ようというところで誰が来たんだ?
「あなたたち!」
目を開けると二里さんだった。仁王立ちで腰に手を当てている。何だか怒られそうな感じだったので起き上がって見ると、渉は呑気にまだ寝ていた。
「渉くーん!」
三上先輩が優しく肩を揺らすも全く起きない。デスゲームの疲れが深い睡眠をいざなっているのだろう。
「KUDO!!」
二里さんの叫びと言っても過言ではない呼び声で、渉は文字通り飛び起きた。
「え? は? え? は? え?」
信、充交互に見て状態になっている。二里さんはその様子を完全に無視して、
「我々の必死の説得のおかげであなたたちも復讐に参加できることになりました!」
と言った。
「え、復習……? 課題のこと……?」
渉は夢の中にいるようだ。
「とにかく今日は寝て」
また二里さんは無視した。
「明日会議を開きます。そこで作戦を練りましょう」
質問の間も置かないまま立ち去ろうとしたが戻ってきて、
「あ、あと近くにシャワー室があるから使って。さすがにベッドはないけど」
と言った。
そうか、じゃあアームストロングもかおりを殺した奴も自らの手で捕まえることができるのか。ただ彼女はどうなんだろう?
「あ、あの」
「何?」
二里さんは向こうを向いたまま立ち尽くした。
「薫は大丈夫なんですか?」
「大丈夫、あの子は強い。心も体も」
一瞬だけ口角を上げて二里さんは立ち去った。
「お前、薫のこと好きか?」
「え? 違うけど、なんで?」
「いやあだってさ」
二里さんがいなくなってから渉は完全に夢から覚めた様子だ。
「下の名前で呼んでるし、おんぶしてたし、すげえ心配してるじゃん」
「それはね」
俺は諸々の事情を話した。
「はあん、それでその後二人はベッドイン――」
「してないよ!」
「冗談、冗談」
渉が久しぶりに声に出して笑った。
「いいな、なんかそれ。本気でぶつかり合うことができる相手がいるって。七瀬さんのこと最初オレ、嫌な感じで言ってたよな。なんかごめん」
渉は手を合わせた。
「謝るなら薫にだろ」
俺が言うと渉は地球防衛軍に指名されたかのように顔を引きつけさせた。三上先輩はその様子を楽しんでいる。
「信くんって確か元カノがいたんだよね?」
「そうです」
「え? マジで」
渉は裏切られたというような顔をした。
「その人のどういうところが好きだったんだい?」
「そうですね」
元カノのことを思い浮かべる。一葉かおり。ボブカット。バカを言っても乗ってくれる。そう。
「かおりは俺をそのまま好いてくれてました」
「薫を?」
「か・お・り」
「へえ? 同名?」
やっぱりまだ渉は夢から抜け出せていないようだ。
「おお、いいじゃないか」
「彼女の無念を思うと俺しんどくて」
「そうか……」
三上先輩は前傾姿勢で壁の方を見据えた。彼は彼で今まで尊敬していた父親に裏切られたように思っているだろう。彼も彼で彼なのだ。
「マジでがんばれ」
ふと渉がそんなことを言った。
「ありがと……」
渉はまた寝ていた。三上先輩もその光景を見ていた。そして目が合った。渉はともかく二人にはやらなきゃいけないことがある。何としてでも悪を成敗せねば。そう意思確認をしたような気がした。
「朝だよ! 朝だよ! 朝だよ! 起きなさい!」
二里さんがやってきた。この部屋に窓がないからわからないが、どうやら朝がきたらしい。目を開けてゆっくりと体を起こす。前夜、シャワーを浴びた後(渉はもう一度起こす必要があった)、俺たちはしばらく喋っていたが、圧倒的な眠気に夢の中へと押し流されていたのだ。
「はい、起きて起きて!」
催眠術師がやるぐらい激しく三上先輩の肩を震わせる二里さん。
「ん、ん……?」
渉が眠気眼をこすった。
「うわあ」
「はいとっとと起きる」
「あ、はいはい」
三上先輩が直立するや否や今度は渉が標的となった。
「はい、起きてー!」
同じく肩震わし攻撃を受けるも渉には何の効果も無い。先輩は辺りを見回している。
「起きなさい!」
二里さんが無理矢理立たせようとしても無駄だ。びくともしない。
「ちょっと! ぼうっと立ってないで手伝って」
「あ、はい」
俺が渉の右手を引き、二里さんが左手を引く構図となった。
「「せえの」」
やっと彼の体が持ち上がった。それでもまだ起きない。
「なんだコイツ、オイ、足を持って」
「こうですか」
「なんで広げるんだよ、閉じて閉じて」
先輩のせいで渉は空中で両手を上げ、開脚しているという状態になった。驚くことにこれでも彼は起きなかった。
「もう……いいやそのまま運ぼう。朝食が用意されてるからそこまで行こう」
「マジっすか」
「仕方ないよね」
渉の顔は幸せそうだった。
彼の寝姿が朝食会場に現れ、その場にいたデスゲーマーたちに二度見どころか四度見されたことは必然であった。
朝食会場はホテルの会場といった感じだった。今までの黒い壁とは違って真っ白い壁で窓もあり、レースのカーテンで飾りつけられている。テーブルクロスがかかった長方形のテーブルにはすでに美味しそうな食事が用意されている。てっきりサプリメントだけで済ますのかと思っていたからこれは安心した。
ただ、険しい顔の人物たちが黙って目玉焼きにパンを食っていたのでかなり異質な光景だった。薫の「卵在庫処分定食」もなかなかだったが、それを上回るほどの異質さだった。二里さんは定位置があるのか渉を置いた後どこかに行ってしまった。あまりに静かなので俺は先輩と目配せし合いながらなるべく音を立てないように座ろうとした。
ふと足に何かが触れた。おそるおそるテーブルの下を覗き込むとなんとそこには一丁前の武器があった。全身がヒヤリとする感じがして顔を上げると、パンを持ったまま固まっている先輩の顔があった。下のテーブルを指さすと、先輩も覗き込んで顔を青ざめた。すぐに起き上がってパンをチビチビ食べだしたが、パン粉が大量に落下していた。
三上先輩が戦々恐々と食事をしている間、俺は辺りを見渡した。意外なことに(薫や二里さんがいた時点で察せられたが)デスゲーマーたちは老若男女様々であった。
渉がとうとう覚醒し、
「ここはどこだ?」
と記憶喪失者並みの発言を繰り出したところで堀場会長がやってきた。
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