B-8「答え合わせ」
SHORTはこれから通るルートを熟知してるようで、ワゴンを急発進、急停止させながら、どんどん車を追い抜かし、ついには高速道路に入った。
とりあえずワゴンの中は安堵の声であふれた。渉が、
「ごめん、みんな。初めて死体をみたもんだからおかしくなっちまった」
と言うと、
「いやしょうがないよ、それは」
と三上先輩がフォローした。二里さんは目の前の景色を見ているままだ。
「二里さん!」
突然薫が後部座席から前の方に座っている二里さんに話しかけた。彼女は振り向かない。
「無断で行動してすみませんでした。その、勝手に追跡して」
「いや、あたしの責任だから。上司のあたしの監督不行き届き」
「でも」
「気にすんな。みんな生きてるんだから」
そして二里さんは一拍置いて、
「生きててくれて良かった」
と言った。二里さんにも人間の心があるのかと言わんばかりに薫は目を丸くしていた。他の男2人はうんうんと頷いていた。
車は深夜の高速をひた走っていく。どこに向かってるんだろう? その疑問をそっくりそのまま二里さんにぶつけると、
「我々の基地だよ」
と答えてくれた。それだけでなく、
「みんな、腹が空いてるんじゃない? そこのシートの下にボックスがあるでしょ」
と渉が座っている席の下の方を指さした。なるほど、確かにボックスがある。
「これすか」
渉がそのボックスを持ち上げた。
「お、重……」
「開けてみて」
ボックスの中には乾パンや缶詰めが詰め込まれていた。
「それ非常用のやつ、適当に食べて」
みんな今までの恐怖感が薄れたからか、懸命に食った。なかでも薫がものすごい形相で食べていた。
「ちょ、見ないで」
あ、バレた。目線を自分のパンの方にずらした。避難訓練のときに食べたときはあんまりだったのになあ。パンはとても美味かった。
「そういえばどうして二里さんと三上先輩が一緒にいたんですか?」
「ああ、それはね」
先輩が答えた。
「君たちが捕まった時、実は僕見てたんだよ」
「もしかして俺と薫が合流したときも?」
「ああ、そうだよ」
「見てたのなら助けてよ」
薫が不機嫌そうに言った。
「そういうわけにはいかないよ。素人が殺し屋たちに勝てるわけないだろ? それ以前に君たちがデスゲーマーだと知らなかったから意味不明でさ。慌ててとりあえず警察を呼んだんだけど」
先輩はパンを食う手を止めた。
「警察はむしろ君たちが麻酔銃で撃たれて運ばれるのを助けたんだよな」
全く信じられないといった顔だ。
「僕、そもそも殺し屋たちをデスゲーマーと思ってて。だから余計によくわからないというか」
「オレもそうっすよ。最初に説明されたときなんか何言ってんだコイツってなりましたもん。」
「その言葉、回復するまで覚えておこう」
ニヤニヤしながら彼女が拳をそろえたので、渉は縮こまってしまった。
「僕、父が警察官だからそのことを電話したんだよ。でもとりあってくれなくて。なんかいつもと違う感じで不気味に感じたんだよね」
「完全な隠蔽ね」
二里さんが言った。
「で、どうしようもないんで信くんにDMを送ってアパートに戻ってきたら二里さんがいて」
「あたしは薫の信号がやけに途絶えだしたし、あの子反骨精神がすごいからあたしに何も言わずに勝手に何かしでかすかもなと思ってたからアパートに行ったのね」
「で、二里さんに問い詰められて。半ば強引に連れられてまさにこのワゴンで基地まで行ったんだ」
二里さんに睨まれて先輩は、
「もちろん何もされなくても行ったけどね」
と慌てて修正した。俺と渉は顔を見合わせた。渉はエロい想像をしているらしい。顔がにやけている。トリモチトラップに遭ったくせしてよくそんな顔できるな。
「基地で僕たちは他のデスゲーマーのみなさんと話し合った」
三上先輩は今思い出すだけで恐ろしいといわんばかりに顔を張りつめた。
「これはあたしの責任だからあたしと三上でやりますということになった」
「一応コードネームはMMMだよ」
「誰も助けてくれなかったの?」
先輩の渾身のギャグをガン無視して薫は聞いた。
「PENGURIN、この界隈は厳しい世界です。そのことを忘れたの?」
「いや、あんなにみんなで団結して殺し屋たちを捕まえようと躍起になっているのにおかしいなと思って」
「あなたまだまだデスゲーマーになり切れてないね。とにかく我々はSHISSOから来たDMを元に大学へ向かった。途中で捨てられていたSHORTも拾った。SHORTは『おこちゃまデスゲーマーたちは預かった』なんてプラカードを持たされていたね」
その光景を浮かべて思わず吹き出しそうになった。いやそのおこちゃまが自分たちのことなんだ。畜生。
「薫からはDMの返信が来なかったんだよね」
「あ」
薫が口をあんぐり開けた。反骨精神がここにもあったのだ。
「だからしょーがなくSHISSOのDMを信じて大学へ行ったんだよね」
「すみませんでした」
絶対思ってないよね、その表情。
「そしたら待ち伏せていた殺し屋たちに襲われて」
「もう僕ビビりましたよ。二里さんが5人相手に1人で立ち向かうんですから」
先輩がとんでもないという顔をした。あ、そっちにビビったんだ。
「あの時は必死だったからな。表情が崩れていたかもしれない。もしも見えてたら忘れてね、確実に」
「あ、はい……」
運動会の騎馬戦の鬼形相写真を消してくれというような要請に、先輩は縮こまった。
「で、結局デスゲームが行われてたのは大学じゃなくてアパートの公園の真下だったんだよね、なんで大学って書いたんだい?」
「黒板とかロッカーとか広場の石像とか大学みたいな要素が多かったんですよね」
「オレたちが最後にいたところなんて講義をやるとこだったよなあ」
渉がぼんやりと言った。
「へえ」
三上先輩がスマホを見て顔をしかめた。
「じゃあなんで『大学にて』って書いたの?」
「え? そんなこと書きました?」
身を投げ出して先輩のスマホをのぞくと、たしかに『大学にて』と送信されている。あれ? なんでだっけ?
「あ、わかりました」
俺がポンと手を打った。
「あのとき焦ってたんで多分、『大学に似てる』って打とうとしたけどミスったんだと思います」
「おー、なるほど」
三上先輩は探偵の推理に納得する刑事みたいな顔をした。
「でもなんで大学みたいな地下空間だったんだろう?」
この薫の疑問には二里さんが答えた。
「大学に殺し屋たちが待ち伏せしていたっていうことはおそらく、間違って我々がやってくることを想定していたんだろうな。そして奇跡的にその目論見は当たったわけ」
「何かすみません」
俺が謝ると、
「全然、全然」
と二里さんがすました顔で言った。
「じゃあどうやってわかったんですか?」
「GPS」
三上先輩が答えた。わあイマドキ。
「最初みたときは二人のスマホを見つけれなかったんだよね」
「ああ地下で圏外だから」
確か石像の辺りまでいくと通信ができるようになったんだよな。
「まあ大学行った後に信号を拾えたからよかった――」
「さあ、そろそろ基地だよ!」
三上先輩の言葉をさえぎるように二里さんが言った。
車は高速を降りていき、街中を走っていった。基地はどんなところなのか、そしてそこにいるデスゲーマーたちはどんな人々なのだろうか。緊張で胸が張り裂けそうになった。
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