カスティーリャ・イ・レオン州(北西)
~ エル・ブルゴ・ラネロ
★14日目★彡 ~ フロミスタ(25km)
痛い……。
朝起きたときに最初に感じたのは、膝と肩の痛みだった。
肩は、移動中に長い時間食い込んだバッグの肩ひものせいだろう。もちろん、これまで登山バッグの腰や胸のベルトはちゃんと締めて、肩に負荷がかからないような背負い方はしてきた。それでも二週間も重い荷物を背負って歩いていれば、無傷ではいられないみたいだ。
膝の、ピシッという電流が走るような痛みも、多分歩きすぎが原因の炎症だ。あたしはいつも両手に
本当は、今日一日くらいは肩と膝を休ませたほうがいいのかもしれない。でも、そうも言ってられない。サンティアゴは逃げたりはしないけれど、だからと言って、歩かなければいつまでたっても到着しない。
痛みを抑えて、あたしはカストロヘリスのアルベルゲを出発した。
昨日は到着するのが遅かったせいで、近くのスーパーが閉まってしまったあとだった。レストランは多分やっていたと思うけれど、わざわざこんな田舎の町のレストランに一人で行っても、あまり楽しい物でもない。ちょうど、
そのときは、「明日の朝はカフェでいつもよりもちょっと豪華な朝ごはんにして、帳尻を合わせよう」なんて思っていたのだけど……。いざ今日になってみると、あまり食欲がわかない。結局、朝食も手持ちの食材で適当な料理を作って済ませた。意外とあたしは、食事の味とか内容にはこだわらない性格みたいだ。
でもそのおかげで、食事に余計な時間を使わなくて済んで、歩く時間を確保することが出来た。
カストロヘリスは、まるで大きな迷路みたいな町だった。
家々が山の斜面に建てられていて、左右を背の高い石壁で囲まれた細い道が町中に走っている。見通しが悪いので、一本道を間違えると自分がどこにいるのか全然分からなくなってしまう。昨日スーパーを探して歩きまわったときは少し苦労した。
でも、カミーノの順路通りに先に進むだけなら、それほど心配はいらない。カミーノのセオリーとして、こういうところこそ手厚く道しるべがあるものだから。道の真ん中に点々と作られていたホタテ貝のレリーフを追いかけていくだけで、迷うことなくあたしは正しいルートを進むことが出来た。
町を出ると、すぐに、小さな山を上る道になった。
上り坂に加えて向かい風も吹いていたので、歩くスピードはかなり遅くなってしまう。途中、風に逆らって頑張って花にしがみついている蝶々がいて、その様子が無心で歩いている今の自分の姿に重なって、なんだか嬉しくなったけど……。やっぱりすぐにバカらしくなってしまって、息を吹いてその蝶を吹き飛ばしてしまった。
遠くには、別の山も見える。そこには、風力発電用の大きな風車が何本も立っていた。何もない開けた台地の中にときどき小さな山が点在しているようなこの辺りの地形は、強い風が吹きやすい構造になっているのかもしれない。
少しだけ、パンプローナを越えた先にあったペルドン峠を思い出した。
その小さな山を上り切った頂上では、巡礼者をターゲットにした移動式のカフェがオープンしていた。定食も食べられたので、そこで、足りなかった朝食の埋め合わせと昼食を済ませることにした。
いきなり上り坂なのもあったけど、やっぱり昨日頑張り過ぎたのが効いているのか……。あたしはそこで結構長めに休憩をとってしまって、結局その日はあんまり移動距離を稼ぐことは出来なかった。
★15日目★彡 ~ カルサディージャ・デ・ラ・クエサ(36km)
昨日あまり歩けなかった分、今日は、少し多めに進んでおきたい。そんなあたしの希望を叶えるみたいに空は雲に覆われていて、気温もそれほど上がらなかった。
ただ、そもそもブルゴスを過ぎてから標高が少し高いこともあって、気温は少しずつ下がり始めていた。だから朝だけに関して言えば、涼しいというよりは肌寒く感じたくらいだった。
相変わらず、膝は少し痛い。でもこれも、気温や気圧の影響があるのかもしれない。あまり気にしないようにして、先に進んだ。
途中、平坦でまっすぐ続く砂利道のようなところで、ヤイコさんのように自転車で巡礼しているらしい人たちが、何人もあたしを追い抜いて行った。
自転車には、特別な工具で前後左右にバッグがくっついていて、持っている荷物だけで言ったらあたしたち徒歩の巡礼者と同じか、それよりも多そうだ。でも、進むスピードは全然あっちの方が速いし、正直言って、徒歩よりもずっと楽そうに見える。
もしかしたら、どこか大きな街に行ったときにあたしもマウンテンバイクでも買って、それに乗って進んでもいいのかもしれない。お師匠様は「カミーノに行ってこい」って言っただけで、徒歩で、なんて指定してなかった気がするし。
★16日目★彡 ~ エル・ブルゴ・ラネロ(40km)
一日三十キロオーバーを歩くことにも、だんだん慣れてきた気がする。
必要以上に他の巡礼者となれ合わず。食事も「カロリーさえ取れればいい」みたいな感じで、スーパーとかで買いだめしたパンとかお菓子とかを歩きながら詰め込んでいれば、休憩時間も最低限で済む。……もちろん。歩き終わって目的地に着いたあとは、疲労困憊で立ってることさえしんどいくらいで、何もできなくなっちゃうけど。
でも、そもそもアルベルゲでは服の洗濯と眠るだけで、元から何もする必要なんてないから、特に問題はない。
一番大変なのは、次の日の朝になっても全然疲れが取れなくて、起き上がるまで時間がかかっちゃうってことくらいかな。肉体的にも、精神的にも。
まあ、それでもこの調子でいけば明日には、ブルゴスと同じくらいに大都市の、レオンに到着できそうだ。
なんて言ってたら。
途中のサアグンという町で、ついに、雨に降られてしまった。
昨日から、実は正直、天気はちょっと怪しかったんだ。空が雲で覆われていて歩きやすい、なんて言ってたけど……実は結構黒い雲だったし。だから、もしかしたら……っていう思いはあって、覚悟はしてた。でも、実際に降られてしまうと、結構へこむ。
通り道にあったサアグンの教会の軒先で、
むしろ、涼しくて助かるくらいだぜ!
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