第5話〜歩行

炎華ほのか火照ほてる顔を気にせずに本棚に指を刺した。


「ね、あの本棚から本取ってくれない?題名は「対比する者へ」って言う本」


おいおい、いきなりパシリかよ。本棚はすぐ近くにあるのに自分では行かないつもりか、俺の姉ちゃんかよ。俺は首を横に振った。


「嫌だね、初対面でパシリはないだろう。すぐ近くだし歩けるだろ?」

「いじわるー…じゃあ、手を貸してよ」


炎華ほのかは俺に擦り寄り、両手を出した。まぁ、それぐらいなら良いだろうと思い手を貸した。


「いいけど、足がしびれているのか?」

「うん、そんな感じ。最近はあんまり足が動かないからちゃんと手、握っててね」


俺はベットから立ち上がり、彼女の手を強く握る。多分、これぐらいなら痛くないと思うけど女子の手ってこんなに柔らかいのか。


指も細いし、爪がとても綺麗だ。パンのスクイーズ触ってる感触だ。そして炎華ほのかはベットから立ち上がった。


ワンピースのパジャマはとてもたけが長く、足元まで見えないぐらいだ。


「アハハ、社交ダンスってこんな感じなのかな?炎華ほのかがシンデレラで、泉水いずみちゃんが王子様ね」

「おいおいジャージ姿の王子がいるかよ、ちゃんと掴んどかないと落ちるぞ」


彼女はとても笑顔で、動く度に左目の花が動く。その光景は本当に姫のようだった。俺はずっと見ていたかったが、もう本棚の前に来てしまった。


うっわ…俺何考えてんの。白髪の左目に花をつけてる幻の女の子に見惚みほれたなんて、一生イジられるぞ。


「…ほら、あったよ。この本にね、今の状況とそっくりな事が起きてるの」


本棚の前に座り込んだ炎華ほのかは、ある本を手に取り朗読した。


この状況とそっくり同じ事が起きてるのはあまり信じられないが、知らないよりはマシだろう。


「主人公の女の子は夢でその男の子と会うの。それで仲を深めるんだけど、女の子は悪魔で、男の子は天使だから恋人にはなれないの」

「あらすじを聞いていて、分かっていたが全く知らない本だな」


この作者は悲しい恋が好きな人らしい。悪魔と天使がくっつくエンドは、宗教関係の人達に怒られそうだ。


彼女はとてもワクワクした様子だった。炎華ほのかは父以外と話した事はないし会ったこともない。


そして、同い年の子と本の内容を語り合うのが夢だったので彼女はとても楽しく本を朗読している。


「それで、最後はどうなるんだ?」

「悪魔の女の子と天使の男の子は駆け落ちで、2人とも死んじゃうの!最近の本で古典的なラストは珍しいよね」


俺はやっぱりそうだよな、と思った。まぁ、何ともありきたりな展開だがそれを言うのはやめておこう。


すっげぇキラキラした目で見られてる…ガッカリさせてしまえば、立ち直れないだろう。


「ね、ね!どう思う?」

「あー、うーん。やっぱり天使と悪魔だし死んでも来世ではまた会うよ的なアレがあるんじゃないか?」

「そうだよね!泉水いずみちゃんもそう思うよね!そうじゃなかったら嫌だもん。炎華ほのかは結ばれる結末の方が好きだから」


彼女は本を両手で、そっと握りしめてそう言った。あれ、何だか、すごく眠気が…………それは炎華ほのかも一緒にだった。


「ーよ。ご飯出来たわよ!!!」


目が覚めると、そこは自分の部屋でお袋がキレ散らかしているところだった。

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