第28話〜夜は自己嫌悪

…鈴虫やカエルの声が聞こえる、涼しい夜の風が俺の目をさすってくる。目を開けると、そこは家の前であり日は既に落ちていた。冷たいジャリジャリするコンクリートから立ち上がり、家の中に入った。


「あれは夢だよな、夢でいいんだよな」


夢だとしても、何故俺は家の前で倒れていたのか。そして誰も起こしてくれなかったのか。深く考えない問題もあるのだと、今日初めて知った。


「あ、帰ってたのね。いずちゃんったら、またこんな夜遅くまでどこ行ってたの?」

「えっ?家の前で寝てた」

「あのね、なんで家の前で寝てたのかは知らないけどお母さんが帰ってきた時は、家の前にいずちゃんは居なかったわよ」


お袋は俺を見て、不思議がっていた。じゃあ、俺はいつ家の前で寝ていたんだ?あーあのバケモンといい、調子狂うぜ。


「ふーん、それじゃお風呂入ってくるわ」

「はいはい」


今日は湯船につかれる日だ。思う存分に浸かって今日の事はもう忘れよう、そうしよう。俺は服を乱雑に脱ぎ捨てて湯船にはいった。


「ふぃー…」


染み渡る温かいお湯は、体を癒してくれた。こうやってゆっくりと入るのは中2ぐらいしかなかった。中3になってから受験だのなんだので忙しかったからだ。


「…やっぱりもう…」


無性に炎華の事が心配になった。あの化け物に取り憑かれているのではないか?とか、そもそもアレと連携して俺を食べようとしているのではないか?…嫌なことばかり考えてしまう。

でも、あれは夢だ。今までのは全部夢なんだ…そう思いたかったが正直、炎華と夢について語り合ったり、お菓子を食べた事は楽しかった。


「いずちゃーん!」


急にお袋が叫ぶので、俺はびっくりした。


「な、なんたよ!急に叫ぶなよな!」

「いやねぇ、今日ねぇ?近くのお花屋さんあったでしょ?」

「あぁ、あそこね」


近くの花屋といえば、俺が化け物を退治…とまではいっていないがそこで足止めをした所だ。そこがどうしたんだろ?


「あそこのお花屋さんでね?植木鉢が1つ割られたらしいのよぉ。監視カメラもその時動いていなかったらしいし…みんな空き巣って言ってるらしいのよぉ…怖いわねぇ」

「そ、そうなんだ。ふーん」

「あらいずちゃん興味なさそうね」


あぁ!もう!あれは夢なんだ!そう、あれは夢…俺は自分が摩訶不思議まかふしぎな事に首を突っ込んでいるのだと、自覚した。


そのままの体勢で、湯船の底に沈んだ。鼻から出ていく空気がボコボコと音をたてているのが、少し気を休めてくれた。


しかし、人差し指の先の皮膚が少し爛れていた。この2つが俺にあの出来事は現実であると警鐘を鳴らしているみたいだった。


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