第31話〜泣かされた苦い記憶

ー何も楽しくない。


時間が経つにつれて、月日が流れていくにつれてどんどん心がになっていく。大人って、何にも動じない事を言うのだろ?親父が言ってた。

今日も勉強、明日も勉強。代わり映えのないと言えばそうだけどこれでも頑張っている。あー、明日は…数学と国語のあの所で、理科はもっと細胞のところを…で、社会は公民の憲法の所がぁ…


「ちょっと!聞いてんの?」


数学の自習の時間に机を手で叩いてきたこの女の子は瀬山さんだ。本当は席替えで、筋肉ゴリラの隣だったのだが2人とも嫌すぎて泣いてしまい急遽きゅうきょ俺が入れ替わりとなって今の形に落ち着いた。


「…何?」

「お前ボーッとしすぎ!アタシが話してあげてるんだからちょっとは反応したら?」

「だれもマニキュアかブリキュアの事なんて、そんな気にしてないよ」

「ペディキュア!足のネイルの事だし。モテない陰キャに相談するんじゃなかった」


何をそんなにイライラしているんだろう?自信満々に校則違反の事を話しているコイツに対して腹が立ってきた。いきなり何なんだ?偉そうにして。実際は全く偉くも何ともないのに。


「ネイルは校則違反だろ。やるなよ」

「いやまぁ…それよりぃ、髪巻いてみたんだけどぉ、どう?これで高校デビューいけそう?」


露骨ろこつに話をらしてきた。そんな事を気にするより勉強すればいいのになぁ。あぁ、腹が立つ。

俺はこんなにもアリのように頑張っているのにこの隣のコイツは何もしないキリギリスと一緒だ。あの童話と同じように俺に助けを求めるのだろう。あぁ、腹が立つ。


「なんで勉強しないんだ?もう受験のラストスパートだろ」

「えぇだってぇ〜アタシはぶっちゃけ稲高だしぃ、勉強しなくても余裕なんだよね。え、逆に聞くけどアタシの事を頭悪いって思ってる?」


その喋り方の時点で頭が悪いだろ。


「てかさー、早く彼氏作りたいんだけどさぁ。リンスタのDMで今やりとりしてる5人の中から誰選べばいいと思う?」

「あー、隣がこんなカスな陰キャじゃなくてもっとカッコイイ人が良かったなぁ。ろくに会話出来ないグズじゃなくてぇ。てかアンタ落ちてそう、あはは」


人格否定、本人の前で悪口。俺はもう腸が煮えくり返り、果てには泣きそうだった。今までの努力を全て否定された。

こんな俺の事なんざ全くといっていいほど知らない奴に。俺だってお前みたいに楽しく生きたいよ。唇を噛み締めて必死に耐えようとするが無駄だった。


「え…泣いてんの?」


周りはぎゃあぎゃあと騒いでいたのは良かった、この泣いている姿を見られたくない。俺はこっそりとトイレにいった。

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