第3話〜白い部屋

俺は多分、夢を見ている。夢じゃなかったら寝るだけでこんな変な場所には来ない。


パッと見だけど、女子の部屋のようだ。本棚には小さな白いクマのぬいぐるみが置いてある。それぐらいしか家具がない。


「これが噂のコンモリか?棚とベットぐらいしかねぇじゃん。俺の想像力がなさすぎなのか…まぁ、いいか」


辺りを見渡しても窓はひとつもない。扉がひとつだけあったが、頑丈な扉がありカードーキーで開くタイプの扉だった。


勿論、それも白い。そしてこの部屋で1番目立つのは天蓋てんがい付きベットだ。


こんなクソデカくて白いレースで囲った物は初めて見たぜ…って、誰かいるな。


ベットのレースを手でのけて、ベットで眠っている女を見つけた。

俺と同い年ぐらいだろう。人形のように白く、髪も真っ白だ。


「こんなところに人形置いてんじゃねぇよ、全く。目のところに変な花ついてやがるし」


その女の子の左目には黄色の花がぶら下がっている。藤の花の黄色いバージョンのやつで、俺はそれに触れてみた。


「すげぇ…生きてるみたい」


触れてみると、分かった事がある。この女の子の目にはつまり、くっついているのだ、体と花が。


「まじかまじか!こんなにリアルな夢は初めてかもしんねぇな」

「…んぅ……はっあっ!!!?」

「っっあ!!びっくりしたぁ!人形じゃなかったのかよ!お前えぇ!」


ずっと触れていると、その人形だと思っていた女の子のまぶたは開いた。それと同時に驚いた。


女の子の目は綺麗な黄色で、左目の花と同じ色だった。白いまつ毛が素早く動いている。


「アナタ……何者?幽霊?」


女の子は起き上がり、俺を指さした。…まさかガチで生きてるなんて…。てかすっげぇ驚いてない?すっごい息荒いんだが。


「名乗る者でもない…俺は飴岩泉水あめいわいずみ…好きに呼びな」

「名乗ってるけど…でも、え、あ、頭痛しない?吐き気は?」


すごく戸惑っているようだ。でも急になぜ俺の体調を気にしているのだろう?コイツ変なやつだな、まぁ夢だし。


「やっぱ夢だと会話進まねぇよな、うんうん。体調はグッドよ」

「夢じゃない、これは現実なんだよね?ね、ねぇ…えっとなんて呼んだらいい?」

「はぁ?夢に決まってるだろ、ちなみに俺は名前呼びされたいな。てかお前の名前何?」


女の子は気が動転している、頭に手をあてて悩んでいるようだ。俺はじっくり彼女を見た、黒いワンピースに肩を出している。


「幻中…幻中炎華まもなかほのかって言うよ。泉水いずみちゃんアナタどこから来たの?どこに住んで、何を食べてるの?その格好は?なんていうの?」


幻中炎華まもなかほのかはグイグイと俺の方にくる、何やら興味津々の様子で俺を見ている。距離感が犬と人の距離になったぐらいで、俺は喋った。

こんなに女の子と近いのは赤ん坊の時ぐらいだぜ。


「待て待て待て待て!近い、近いんだよ。落ち着いて話合おうぜ。幻中まもなかさんよ!」

「苗字はやだ、父様と同じで混乱する。炎華ほのかがいい」


炎華ほのかはまるで子供のような口調で訂正を求めてきた。いや、まだ20歳は超えていないし子供というのはあながち間違えではないのか?

でも電車では大人料金だ。大人料金を払っているのだから大人と認定されているのでは?


「うーん分からん」

「ぶーぶー、無視はやめてよねぇ」

「ごめんごめん。えっと……」


彼女は笑った。その薄い桃色の唇は伸ばされ、口角は上がり白い歯が出てきた。八重歯が生えておりそれは彼女の可愛さを更に引き立てている。

そして目は細くなった。目尻には笑ったときに出るシワが出てきてそのシワがより笑顔を強調した。


「ほのか…炎華ほのかだよ」


心臓が殴られた感触がする。


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