第13話〜夢

「…あれだよ、あれ。昨日の夜ご飯は覚えてない的なあれなんだよ」


とりあえず適当な嘘をついた。円滑えんかつに進むためには少しの嘘は必要であるなんて、親父も言っていたし。


でも、最近は何もしていない。というか、記憶にも残っていない。いやあった、記憶はある。ただ高校進学出来ればいいな、というあわい目的を目指してやっている勉強しかないけど。


「あはは、忘れちゃうの早いね。あれ、そういえば泉水いずみちゃんって何歳なの?」


炎華は特に俺の嘘については興味がなさそうだった。というより、信じてるみたいだった。その優しさがより罪悪感をつのらせる。


「あと3ヶ月で、8月28日が誕生日だから今は14」

「わわ、同い年だぁ。炎華ほのか炎華ほのかはね?3月7日生まれだからね、まだ14なの!一緒だね」


テーブルにドンッと、両手で叩き、輝いた目で俺を見ている。顔は近くなり、目の前は彼女の顔しか見えなくなった。


目の花が、揺れているので匂いがする。なんだか懐かしい匂いだった。本当に久しぶりの匂いで、なぜか心臓の鼓動が早くなる。


「近い、近い!」

「わ、顔真っ赤だ」


…ほっぺたの横に、ホクロあったな。って、何をしょうもない事考えているんだ俺は。


炎華は、しょんぼりとして椅子に座った。しかしすぐに立ち直り、次の話題へといった。


「ねね、泉水いずみちゃんはあと5年で20だけどやりたいこととかあるの?」

「…炎華ほのかは、なぁーんでそんなに将来のこと話したいんだか。まぁ、教えてやらんこともない」

「本当に?早く聞かせて!」


くっ、皮肉モドキを言ったつもりが…!俺の夢を話しても、両親や先生のような大人にけなされるだけだった。


安定的で、争いもない、昔からある変わらない職業を夢にかかげるのが、1番幸せな人生の道標みちしるべなんだろう。


「嘲笑うなよ。バンドのボーカルをやりたいんだ、ミリオンだって行きたいしそこから派生して俳優やモデルもやりたい」


これらはただの夢だ。そう、周りから言われた時の絶望はすごかった。俺にとっては生涯しょうがいをかけてやりたいぐらいの大きな夢だった。


どうせ、コイツも笑うのだろう。安定的でもないし争いは沢山ある、昔からある、このありきたりな夢を。


泉水いずみちゃんなら出来るよ。だって、初めて来てくれた時に手を貸してくれたでしょ?あの優しさがあれば、なんだって出来るんだよ」


純粋。そんな単語が浮かんだ。






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