第11話〜二度目

俺はイチゴタルトを口に頬張ほおばりながら、炎華ほのかの話を聞いた。それにしてもこのタルトうめぇ。


「お人形さんやぬいぐるみと違ってお口の近くに押し付けなくても、ちゃんと食べるからすごく楽しい」

「ぬいぐるみの口に押し付ける?…おいおい、その持っているケーキを俺に押し付けるなんてしないよな?」


俺は紅茶をすすりながら、炎華ほのかのフォークの刺さったケーキがこちらに押し付けないか心配になる。


ずっと沈黙ちんもくして、ニコニコしながらこちらを見ているのでゾッとした。このままでは押し付けられそうなので話を変えた。


「あっ、あぁ、またこの部屋に来たなー。それにしても美味しいなぁ」

「また会えるなんて思ってもいなかったわ、泉水いずみちゃん全然変わってないね」


よし、なんとか話は変えられた。


「そんな事ないぜ、バンバン成長してるよ」


咄嗟とっさに出たのは、まぎれもない嘘だった。俺は全く成長出来てはいない。そもそも大人になるのが怖いのに、成長なんて出来るわけがない。


ずっとこのまま子供で守られていたいという気持ちが俺にはあった。将来の不安という種だけが、どんどん成長している。


その種が成長しきった頃には、俺は首吊くびつりロープに手を伸ばしているだろう。


「いいなぁ、大人に近づけて」


炎華ほのかは頬杖をついて、紅茶を1口飲んだ後にそう言った。俺はその発言にド肝を抜かれた。


「大人になっても面白くないことばっかだろ、なにを羨ましいんだか」

「大人になったらどこでもいけるし、なんでも出来るんだよ?家族にもお友達にも物にも縛られないんだよ」


軽い口喧嘩に発展した。


「いーや、大人になったほうが縛られるね」

「違うよ、大人になれば自由なんだよ」


炎華ほのかは顔を膨らませて、俺に対してゆるい反論をしてきた。彼女は将来に対して何も不安がなさそうでいいなと、俺思った。


「まぁ、どっちにしろアナタには未来があるんだからねー」

「勇気づけられる歳じゃねぇよ、俺は」

「どうでしょーね?あはは」


炎華ほのかはゆっくりとその目を細める。彼女がカップを持っていると本当に、綺麗だった。赤い紅茶は彼女の白い髪とよく似合っている。


なんというか、可愛いと思った。俺って馬鹿だと思う。どんどん彼女と話していくうちに惹かれていっているからだ。


「そーかよ」

「もーそっけなさすぎだよ」



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