第40話 技量の貸し出し

登場人物

―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞めた超人兵士、ヒーローチーム「ネイバーフッズ」の臨時リーダー。

―ローグ・エージェント…暗躍するソ連の軍人。

―ブキャナン…ヴェトナム戦争時のケインの元同僚、アメリカを裏切って東側に亡命した男。



一九七五年、八月、夕方:ニューヨーク州、マンハッタン、停泊中の貨物船上


 特に似ている要素は無いように思われたが、二年程前に登場した『エクソシスト』という恐ろしい映画をケインはふと思い出した。まあ、眼前の裏切ったアメリカ軍兵士は、身長が七フィート近くもあるソヴィエトの巨漢によって何かをされたという事であるが――しかしそれもある種の『オカルト』ではあろう。

 メタソルジャーとはつまりヒーローであるから、時には超常的な振る舞いをする敵とも対峙せねばならないのであろうが、しかしぶるぶると高速で激しく痙攣しながら非人間的にぬらりと起き上がるブキャナンの様は、明らかに尋常の沙汰ではなかった。

「こいつ、つまりお前の元お仲間のブキャナンが、俺達の次元まで達していないのが残念だと、俺はさっきそういう感じで言ったな? だからこれが解決法だ。今の状況で事をもっと面白くしたいなら、つまりこいつに俺の技量を分けてやればいいという事だ。別に減るものでもないがな」

 金属を埋め込まれて体重が異常に増加している巨漢は、楽しみが増えた様子で笑っていた。ケインは差し込む夕陽に目を細め、ブキャナンを再度脅威として分析した。

 言っている事が事実であれば、まあ完全ではないにしてもブキャナンの強さが部分的にはローグ・エージェント級になる可能性はあった。超人兵士としてのフィジカルの強さやスピードはどうかは知らないが、技については…。

 だらりと腕を垂らして首を傾け、ホラー映画のように立っているブキャナンの肉体が不意に力を取り戻した。がっしりと踏み締めた彼は抜刀するような動作を取った――そう来たか!

 鬼神じみた形相と共にブキャナンはだっと駆け寄って来て、存在しない刀剣を手にしているのがわかった。シミュレートされた打刀の類いであった。

 斜めから振り下ろされる袈裟掛けの斬撃を、身を逸らして回避した。当然ながら次、次、次と攻撃は続いた。流れるような斬撃、そして刺突。

 ケインはそれらを躱して、ブキャナンの軸足を蹴って態勢を崩させつつ、ごろりと後ろ向けて高速前転して距離を離した。

 ブキャナンがシミュレートされた日本刀を正眼に構えるのを見て、ケインは己もまたシミュレートを使った。

 高次元的法則の恣意的引用によって現実と幻想を都合よく使い、存在しないブロードソードが己の手の内にあるのを想像した。

 やや大袈裟に手を防護したバスケットヒルトの刀剣をシミュレートし、現実リアリティそのものやそこに存在する万物に対する道義的または倫理的な理由での『架空の刀剣とは言えかくも精密な品であれば、その影響は実際に発生する』という義務を生じさせた。

 ジェームズ・フィグと同時代を生きた魔人ドナルド・マクベイン大佐のようにそれを振り回して演武し、ブキャナンと巨漢は優雅で洗練されたその様をじっと見ていた。

 しかしケインはシミュレートされた、恐らく殺傷力を持つにまで至ったそれを投げ落とすようにして消し去った。腰に提げている『つもり』であったそれの鞘を代わりに持ち、それを長くて硬い機の棒へと作り変える事を意識した。

 ぼうっとスタッフが見え始めた。やはり適度な長さの棒クォータースタッフや、棍棒に限る。ヒーローなら尚更、そのような『比較的加減し易い』武器に限る。

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