第5話 異星人襲来事件にて
―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞めた超人兵士。
―ダン・バー・カデオ…かつてサイゴンで共に戦った南ヴェトナムの精鋭兵士。
―ダグラス・カイル・マン…CIAから派遣された対超常事件の要員、軽度のテレパシー能力を持つヴァリアントの大男。
一九七五年、四月末、敵増援到着直後:ニューヨーク州、マンハッタン、レキシントン街
見上げると、すぐそこにその
千三〇〇フィートにもなろうかという巨体ではあったが、未知の動力や航空力学に基いて不気味に浮遊していた。古い伝承に出てくる巨大生物が張り上げるようなぶうんという重低音を時折発しており、威圧感は凄まじかった。
するとケインは全身で危険を察知した。射線が見えるというのは時々怖くなるもので、今回の場合は何らかの甲殻生物じみた敵艦が彼をレーザー砲で狙っていたのだ。
プラズマや実弾兵器とは違いレーザーの砲門は存在せず、敵艦が最初に降りた時は機体の表面より何十ヤードか離れた所からレーザーの射線が発生していた――レーザーそのものは無色であった。
しかしなんと恐ろしいのであろう、全身がレーザー砲の発射されるであろう予定コースに入っているというのは!
ケインは必死で走り、ビルへと駆け込んだ。既に街のあらゆる場所が荒らされ、ここも例外ではなかった。地下へ向かうドアを蹴破り階段へと降り始めた瞬間に凄まじい地響きが起き、思わず階段から転げ落ちてそのまま折り返しの踊り場で壁に激突した。
幸いこの程度で重傷を負う程ひ弱い肉体ではないものの、全身がぞわぞわと寒気に襲われた。
敵艦は恐らく諦めたかも知れなかったが、人間大の目標すら狙えるとは恐るべきものであった。敵艦はビルへとケインが入るまで彼を捕捉し続けており、射線がずっと彼に追従していた。
すなわちそこまでしてネイバーフッズを潰したいらしい。と、そこまで考えて、ケインは新しい仲間達が無事なのか非常に心配になった。
ヴェトナムであのような経験をしたため、仲間と死に別れるなど到底許容できないとさえ思った。彼は確実に尊厳を取り戻しつつあるが、彼の内なる悪魔は今でも心の奥底で隙を窺って燻り続けているのだ。
数分後:ニューヨーク州、マンハッタン、レキシントン街
通りに出て敵艦を確認したが、今は対空で忙しいらしかった。多くの空軍機が出動していたが、状況はよくない。
またシールドを破られていない敵機が数百機飛来し、空は蝗の大軍に覆われているかのようであった。
平均すると敵機のシールドはミサイルを三発受けて漸く消失し、本体はミサイル一発で撃墜できていた――無論だが、それは非常に効率が悪かった。
このため空軍は不利を強いられ、敵は無敵ではないものの圧倒的な優位に立っていた。時間がないし、しかも自分にできる事は少なそうだ。戦況を変えなければ。
不意に殺気を感じ、全速力でその場を離れた。すると敵兵が四人いるのが見えた。また新たな地上部隊が現れたのだ。
先程何かの故障によって敵のシールドが消失したためケインは目に付く範囲で敵兵を全員倒したが、それを嘲笑う形で敵がわらわらと現れた。
まだ戦闘開始から一時間も経っていないものの、状況はかなり悪い。車の後ろに隠れ、車にプラズマが命中して嫌な音がするのが聴こえた。誰かと一緒に来るべきであったか?
そう考えていたところ、誰かが彼の隣にスライディングで滑り込んだ。
「久しぶりだな、会見かっこよかったぜ」
迷彩柄のズボンと白いタンクトップの青年が現れ、ケインは彼の声と顔を見て驚いた。少し変わったところもあるがこれは。
「カデオ? 君か? 生きていたのか?」
「生憎だけど地獄はまだ満席らしくてなぁ。だから古い友人の隣が寂しそうだから遊びに来てやったのさ」
ケインは頷き、背負っていたショットガンを渡して仕様を簡潔に説明した。ヴェトナムで束の間共闘した友が、今こうしていてくれるのは心強い。
「細かい事はまた後で聞くよ。君が来てくれて助かった」
「ああ。ところでヒーロー様の相棒やるなら俺も殺さないように頑張るべきかな」
「そうだな。異星人で、しかも相手は軍人だろう。だが異星人だろうと無闇に殺すべきではないと思う。侵略者相手にそんな甘い贅沢を言っていられるのは今のうちかも知れないけどね」
「真面目な話なのかケインのユーモア教室なのかわからないな」
「今のがそんなに面白かったかい? 帰ったら顔を縫って笑顔の練習をするよ」
「ケインならその前に治るんじゃないか」
ケインはそれには答えなかった。プラズマが彼らの頭上を通り過ぎ、背後の建物のガラスが融解した。
カデオは何かを言おうとして口を閉じ、敵の猛攻に身を縮ませた。彼らは現在通りを挟んで敵と対峙していた。
「さてと。じゃあやりますか」
カデオはがしゃっと音を立てて次弾を装填させた。恐怖を克服できる、強い兵士のままであった。
「ああ、人々を守ろう!」
ケインが車から飛び出すと、無防備な彼を焼き尽くさんとしてプラズマが音よりも遥かに速いスピードで無数に発射された。殻のようなプラズマ兵器は必死に冷却し続け、大量の排熱が放出されていた。
ケインは射線を完全に読み、そこから身を逸らすように立ち回り続けた。いかに超人的な身のこなしと言えど、ケインはゴリラやグレイのように本当の意味で超人的なスピードというわけではない。
にも関わらず、目視で追えないわけではない対象に射撃が当たらない事で敵は段々と苛立ち始めた。
ケインはその瞬間を狙ってライフルを撃ち、シールドが枯渇した敵にカデオがショットガンで非殺傷性の弾丸を撃ち込み、敵兵は全身を貫く死なない程度の電流で痙攣し、呻き声と共に倒れた。
彼らはその要領で簡単に敵を制圧した。
「でもさ、このままじゃヤバいぜ?」
カデオは微妙な表情でそう言った。彼らは一旦近くの建物に入って身を隠していた。戦況は全く改善していないし、他の仲間tも会っていない。
「それは言われなくてもわかっているさ」
色々と考えていたせいでつい思った以上に辛辣な物言いをしてしまい、ケインはすかさず謝った。「すまない、そういうつもりじゃ…」
「随分なもんだな」とカデオは呟いた。
「気に触ったならすまなかったよ」
「いいや全然」
「本当に?」
「それよりなんとかしようぜ! このままじゃ俺達全員殺されちまうぞ!」
カデオは声を荒げた。彼もこの状況下で様々な苛立ちが募っていたのかも知れない。お互い毒を吐き合って、気が楽になった気がした。
「確かに気にしていないみたいだな」
「晩飯よりは優先度低いね」とカデオは皮肉るように言った。
「あのフリゲート艦みたいな奴は晩飯にちょうどいいい。キンキンに冷えたビールとよく合いそうだ」
ケインがそう言うとのカデオは吹き出した。しかし状況の深刻さを思い出し、大勢の人々が死に瀕している事を思って強張った。「だがどうする?」
見れば砕けたコンクリート片が散乱し、壁は黒く変色し、焦げたコンクリートの匂いという普段ならあまり嗅ぐ機会のない匂いを嗅げた。
ふとその時、ケインの心に妙な感覚が広がった。まるで誰かの心と太いロープで繋がれたかのような。不思議と不愉快ではなかったが、自分よりも大きな体格の男の姿がじんわりと脳裏に浮かんだ。
『さっきホームベースで会ったよな。俺はカイル・マン、CIAだ』
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