第15話 変異、そして暴走
登場人物
―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞めた超人兵士。
―謎の忍者…ローグ・エージェントが放った刺客
一九七五年、八月:ニューヨーク州、ブルックリン、ウィリアムズバーグ
ケイン・ウォルコットは目の前の人間――少なくともそう思って然るべき何か――がぶくぶくと肥え太る様を見た。胴や手足は肥大化し、その色合いも異様となった。
毒々しい深緑色の退色はまるで人体が藻や苔に内側から侵食されたかのごとき様であり、血管が存在感を主張するように浮き上がり、筋肉の怪物のような姿となったそれは天向けて咆哮を放った。
その衝撃で少しの間だけ周囲の雨が球状に弾き飛ばされて、その時だけは内側に雨粒が存在しなかった。ケインはさすがに脚に力を入れて踏み留まり、両腕で上半身を庇った。
靴底が削れながら少し後退させられ、腕の向こう側の忍者の様子を見た。
身長は先程戦ったソ連の超人兵士よりも高くなっており、七フィートどころか八フィートに達しているかも知れなかった。状況を見るために一旦大きく退いた。およそ四〇ヤードの相対距離。
「まるで趣味の悪い映画の怪物みたいだな!」とケインは巨漢の超人兵士向けて叫んだ。
目の前の怪物化した忍者はケインに敗北し、その結果それを認めないあのソヴィエトの男がその手に持っていた装置で変異させたのだ。
因果関係的には恐らくそういう具合いだなと頭の中で一応状況を整理しつつ、言うまでもない事実についても考えた――これから私はこいつと戦うわけだ。
ケインはこれまで通りずぶ濡れのまま構えた。軽くステップを踏み、両腕を胴及び顔の前で掲げた。
怪物がケインの方を見た。顔を覆っていたマスクは肥大化した顔に食い込むか破れるかして、壊死した人体及び包帯を思わせた。
ロブスターのそれのような色をした眼球がこちらを睨め付けた。
その瞬間、亜音速弾ぐらいの速度であろうか、敵はケインに到達していた。
初撃は回避したが、三発目である猛スピードの腕の薙ぎ払いに巻き込まれ、胴を樹齢半世紀以上の木で殴打されたかのような衝撃を味わった。
痛みと共にケインは吹き飛ばされ、腹部の内側が燃え上がったかのような気がした。今度は彼が吹き飛ばされる番で、そのまま朽ちた建物の壁に激突した。
壁にぶつかった果物が潰れながら落下するようにややゆっくりと地面に落ちた。幸い潰れてはいないが、超人兵士でなければ今ので死んでいた可能性は高い。
恐らく内臓、腸辺りで出血が起きている。痛みの程度的に、腸という管の一部が破けているかも知れない。
彼の肉体は既に『消防』に動き始めており、血が溜まって他の部位を圧迫する事を防ごうとしていた。
言葉で表すのが難しいぐらいに痛かった。体を起こそうとすると更に痛んだ。口から血を排出し、口から漏れた血は雨が洗い流すに任せた。
離れた場所で達成感でもあったかのような獣の叫びが聞こえ、ケインは相手を睨め付けた。
「なかなかやるな」痛みを噛み締めるような声でケインは吐き捨てた。痛ましい様子を受けて怪物は嗜虐的に振る舞った。「まあ悪党の虫けらにしてはだが」
その言葉を受けて怪物は弾き飛ばされたかのように高速でケインに接近した。ケインは宙返りで相手を素通りさせるようにした。
怪物は急停止して、振り返って追撃しようとした。空中で逆さになっている状態のケインは流れるように相手の肩を押すようにして空中で己の落下を制御した。
相手が振り向く予定の方角を外して着地するようにして、一瞬翻弄した。ケインは相手の脹脛を狙って蹴ってやった――そうだ、今は攻撃していい。
まだ感覚を完全に肉体に広げられていない。故にそこから始まった攻防で顔面に小さな擦り傷でズタズタになったかのような打撲痕ができた。
相手は手を変えた。狭い瓶の中であちこち反射し続ける何かの粒子のようにケインの周囲を高速移動した。空中で何かの術を使って方向転換している。
ケインはその場を動かずに防御を固めた。
相手は速い。だが、完全な速さではない。身体能力に依存し過ぎた速さだ。最適化されていない。
ならば、己が
防げるのだ。
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