裏切り者との再会

第21話 記録映像

登場人物

―マシュー・コンラッド(マット)・ギャリソン…『ワークショップ計画』責任者。



一九七五年八月:ニューメキシコ州、ロスアラモス国立研究所


 大雨のために必ずしも鮮明とは言えなかったが、しかしその男は手の者に撮らせた映像を後日視聴していた。

 記録映像媒体は軍の航空機に載せられ、できる限りの最速でその男がいる晴れ渡ったロスアラモス国立研究所へと届けられた。

 記録映像内では、遠方から望遠的に撮られた屈強な男達の闘争が描写され、常人のそれではない信じられないような戦いが繰り広げられていた。ケインの相手のソ連の超人兵士もかなり強力に見えた。

 敵の男はケインよりも大柄であり、軽機関銃の反動を玩具のように軽く抑え込んで制御しており、人型の自動ターレットのようにすら見えた。

「ケイン・ウォルコット…失墜して残りの人生は年金暮らしの隠居だと思っていたが…毎日ビールを飲んでいそうな男にしては、随分…いや以前よりも強くなっているかも知れん」

 不思議な印象を受ける瞳を持つマシュー・コンラッド・ギャリソンは、かつて測定した頃のケイン・ウォルコットと、今現在の『メタソルジャー』と名乗っている彼のデータを比較していた。

 四人、実際には五人の超人兵士が相手であったヴェトナムでの一件についてのケイン本人の証言が書かれた書類を読み、それから目の前のスクリーンに投影されるケインの姿を再び見た。

 確かに一人との戦いを複数人との戦いと比較するのは奇妙な話であるが、いずれにしてもテト攻勢までのケインが持っていない技量があるように思われた。

 簡単に言えば、以前以上に『達人』になったのだ。あの奇妙な、へっぴり腰のような構え方は一体何か。その辺りに疎いギャリソンはそれを調べるという事をメモしておいた。

 更には映像の途中から、明らかにケインの動きが更に洗練されているのもわかった。それが武術の技量的な理由なのか、それとも何かしらの超人兵士としての能力の拡張が起きたのか…。

 いやそういえば、とギャリソンは思った。ケインは記者会見で、超人兵士であるだけでなくエクステンデッドとしての能力も持っていると言っていた。

 ギャリソンはその時は全く知らず、まさかそのような秘密をと疎ましくすら思った。

 何であれその内容は知っていた。ケインはつまり銃弾等の軌道を視認する事ができる。つまりこれから発生する弾道を事前に可視化できるのであると思われるが、それが更に覚醒したのか?

 さて、ケインと戦う暴走した忍者は目視不能――実際、映像からも姿が消えるので、撮影者は次に現れた地点を探すのに手間取る事もあった――の速度で動いていた。

 ケインは一度、それの攻撃を受けて負傷したように見えた。だがそれ以降は攻撃がケインにほとんど通用していなかった。

 忍者の瞬間移動じみたスピードはケインに全て見切られて対処されていた。通用した手を学習して無効化する、というのは何やらギャリソンには妙な偶然に思えた。

 まるで、己の計画の産物のような。



同時期:ニューヨーク州、マンハッタン、放棄された地下鉄区画


 ニューヨークの古い地下鉄の内、そのままで放棄されたものが幾つかあった。線路の変更や老朽化によって、今では鼠のマンションになっていそうなそのような空間が地下にあって、誰も訪れる事は無いように思われた。

 だがそのような場所を活用するものとて存在した。鼠よりも遥かに巨大な、恐るべき魔獣じみた者どもが。

「お前の言った通りにして本当に面白い事になるのか?」

 放置されて汚れた部屋の中で、壁にもたれる巨漢が半信半疑で、相手を見もせずに言った。

 それに対して、相手の男は意味深な笑みを浮かべた。恰幅のいい、やや肥満体のその男は、この街よりも古ぶるしき実体であるかのような、奇妙な印象を他人に与えるものであった。

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