第8話 アメリカ製超人兵士vsソ連製超人兵士

登場人物

―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞めた超人兵士。

―ローグ・エージェント…暗躍するソ連の軍人。



一九七五年、八月:ニューヨーク州、ブルックリン、ウィリアムズバーグ


 うんざりするような雨が降る中でケインは非殺傷弾を発射した。電気ショックによるもので、運動エネルギーには依存しないような設計となっていた。

「お前は話が早い。気に入ったぞ!」

 巨漢は左腕を翳して受け止めており、雨に濡れた事でばちばちと腕全体が電流に曝された。相手は何か機械部品を埋め込んでいて、それなら強烈な電気ショックでダメージが大きいかと思ったが、そうでもなかった。

 相手はがっと右脚で地面を蹴り、その衝撃で剥がれたコンクリート片が飛来した。なるほどこれは危険だ。ケインはそれらの軌道を見切って回避した。

 あらゆる弾道等の軌道が見える能力、そして改造によって得た超人的な身体能力と反射速度。どこに身を置けばいいかはよくわかっていた。

 だが振動と共に巨大な何かが突進していた。大雨の中で相手のタックルを受け止めたが、まるで車に追突されたような気分だ。北極熊に襲われるとちょうどこのような感じなのか?

 ケインは相手に掴まれる直前に後方へと離脱したが、相手は打撃を放って追撃した。銃で受け止めたが徐々に金属製のそれが歪むのを感じた。

 銃は頑丈だが繊細、これはもう使えないと判断してストック部分で相手の顔面を狙った。

 ついでにグリップ部分を、以前西ドイツのビスマーク基地でドイツ語の復習がてらに読んだ、中世ドイツの武術家公務員ポーラス・ヘクター・マイアーの剣術における鍔を使った攻撃法を意識して連打した。

 相手はこちらよりも巨大だが、それでもケインもまた人並み外れた怪力であり、その攻撃は重く鋭かったため、ガードを優先し始めた。

 壊れたショットガンを相手の顔面に投げて、大男が反射的にそれを受け止めると同時に前蹴りを放った。安全靴のような金属製プロテクターが爪先に詰まっているのでいい武器になった。

 腕で庇いつつも腹に命中したので相手は即座に後退し、一旦構え直した。

 ケインは腰の後ろに装着していた隠しホルスターから衝撃による無力化を図る非殺傷弾を装填した拳銃を取り出して即座に発砲したが、長袖長ズボンの相手は胴や顔面を庇って防ぎながらスライディングで距離を詰めた。

 低姿勢からの回転飛び蹴りでケインの上半身を薙ごうとしたが、ケインも相手の脛に拳をぶつけた。互いに呻きつつ戦闘が続いた。

 ケインの銃撃を相手は腕を逸らさせて空撃ちさせ、ケインは相手が関節技を狙うのを察知して腕を脱出させた。大の大人同士が大雨の降る屋上で壮絶に戦い、逸らし合いの末にやがて弾切れとなった。

 ケインは銃身やグリップを打撃に使用したが、やがて相手の肘を防いだ際に粉砕された。その一瞬の隙に相手に掴まれて胴あるいは顔面を狙った膝蹴りが飛んできた。

 直撃ではないが顔面に当たり、次の手を考えた。痛みは我慢しろ。ケインは相手の膝蹴りをもらいつつも直撃は避け、相手が膝蹴りで一本足立ちになった瞬間に態勢を崩させた。

 マウントを取ってハンマーのようなパンチを振り下ろし、三発当てたところで前方へと投げ飛ばされた。それは予想外の技であったので驚いたが、受け身を取って向き直った。

 見掛けに反する瞬速で相手はスプリングにて立ち上がり、ケインは後ろから襲い掛かったが、相手は後ろに腕を伸ばして防いだ。そのまま向き直りつつ打ち合いが始まった。

 ケインは胴を殴られつつ肘で顔面を殴打した。互いに高速で打ち合い、するうち相手は面白い手を使った。左手で宙を叩くようにして、雨粒をケインの顔面に飛ばした。

 目に水滴が入って一瞬隙が生まれ、相手は中国武術の演武じみた速度でケインの胴を左右交互に高速連打し、締めとしてアッパーで顎を殴り上げた。

 今のはかなりの痛手だ。しかし超人的なタフネスで意識を保つケインは血を噴き上げながらも、右から飛んできた打撃を防いで相手の腕を鍔迫り合いのように停止させ、血反吐を相手に吹き掛けて隙を作った。

 脛を蹴って、次に腹部の内臓を狙った重い一撃、相手の反撃の回転裏拳を躱して、掬い上げるような蹴りで顔面を揺らさせて、少し蹌踉よろめいて後退ったところへ肺目掛けてショルダーチャージ。

 まるで軍艦の装甲板にぶつかった気分だが、しかし相手が呻いたところへ縦回転に振り下ろす蹴りを顔面に当ててやった。

 両者、雨が消防車の放水のように打ち付ける中で共に唾を吐き、地面を僅かに血で染めた。

「思ったよりやるな」とロシア人は笑った。

「まあ、型落ち同士の殴り合いとしては上等じゃないか?」とケインは皮肉で答えた。

 これでいい。胸の中の憎悪が引くのを感じた。個人的な理由の憎悪では駄目だ。邪悪そのものを憎悪せよ。

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