第28話 真の形態

登場人物

―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞めた超人兵士、ヒーローチーム「ネイバーフッズ」の臨時リーダー。

―ローグ・エージェント…暗躍するソ連の軍人。



一九七五年、八月:ニューヨーク州、マンハッタン、停泊中の貨物船上


 メタソルジャーはどのような技を使うのが最適かと考えた。特に軍で習った東洋系の武術や近代武術よりも、ヨーロッパの古い武術の方が得意であると思っていた。やはり…ジェームズ・フィグのノーブル・サイエンス・オブ・ディフェンスか。

 防御の達人マスター・オブ・ディフェンスであった彼の技を意識した。本物には届くまいが、しかしそれでもこの教えは使い易い。高い姿勢で構え、相手の出方を見た。相手はよりヨーロッパ寄りの技を使うようにしたらしかった。

 詠春拳も厄介であったが、しかし相手が本貫とするものが見えた気がした――その大木じみた巨躯に染み渡る、ローグ・エージェントという男を真に象徴する武。雰囲気が完全に変わっていた。ケインがそうしたように、相手も使う武を切り替えたのだ。

 互いに高く構え、少しずつ距離を詰めた。周囲を回転しながら出方を窺い、軽い手の動きでフェイントを放った。不意に相手はオーソドックスな連携技を放った。パンチは顔面、胴、顔面と狙いを変化しながらで、それらをケインは防いだが、しかし最後のハイキックでガードごと後退った。

 実に重たく感じられた。その体重や身体能力を活かしつつ効果的に放たれる打撃であった。

 ケインはすうっと下段タックルを仕掛けたが、相手はそれを捌いて受け流した。ケインは振り返りながらちらりと相手の脚を見て、それからもう一度タックルを実施した。

 相手は突っ込む彼を蹴り上げた。ケインは仰け反るように後転させられたが、しかし罠で、その際に振るわれる足を相手の顎にぶつけた。そもそもが罠であったから、蹴り上げも腕で胴や顔面を庇ってダメージを抑えていた。それでも痛いが、しかし相手にも未知の痛みを流し込んだ。

 相手はやや後退しながら呻き、ケインは受け身を取ってスプリングで立ち上がった。今までとは違う痛みに相手は戸惑っていた。それがなんであるのかがわからず、それが奴の異能ではないかと推測した。

 一方でケインは己の能力の拡張について意識した。弾道だけでなく様々な軌道が見えるようになりつつあった。相手の打撃をある程度先読みする事もできそうであったし、実際先程は少し先の展開が見えた。

「どうした、風邪か?」とメタソルジャーはローグ・エージェントを嘲笑った。相手は先程の痛みの体験を頭から消しながら間合いを詰めた。打撃を放ったが、一発目以外は全てフェイントであった。どこかで恐らく己に到達する軌道が見えると考えていると相手の巨体が回転し、それが己に降り掛かる軌道が見えた。

 反応が遅れた。相手は空中で前転して己の脚をケインに引っ掛け、それから身を捻ってケインを地面に打ち付けさせた。硬い金属コンテナの上で受け身を取りつつ、その熱せられた金属の温度が顔に漂って呻いた。相手はケインの腕を伸ばすようにして極めていた。

 完全にやられないように腕にぐっと力を入れて伸びないように耐え、歯軋りしながら全身に力が入った感じがした。腕を反撃の起点にして身を捻り、相手の方へと向き直った。寝技状態の両者の目が一瞬合った。

 相手の脚が絡み付き、太い木の幹のようなそれが首を締め上げようとしていた。ケインは逆側の腕を伸ばしてそれを相手の首に喰い込ませた。己を締め上げる大蛇を押し潰すように、己の腕という名の塊を押し付け、喉を潰す事すら意識した。

 そこで痛みを与えるやり方を実施し、相手は呼吸を妨害されながら痛みに苦しんだ。一瞬緩んだ隙にケインは相手を持ち上げた。金属で肉体を補強された巨漢の肉体がぐっと持ち上がり、相手が恐れていた事が起きた。

 そうだ、己よりも体格で劣る者に力で張り合われたり、持ち上げられるという『支配できない状況』に不安があったのだ。

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