ローグ・エージェント再来、そして謎の忍者との激闘
第7話 宿敵ローグ・エージェントとの再会、そして…
登場人物
―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞めた超人兵士。
―マシュー・コンラッド(マット)・ギャリソン…『ワークショップ計画』責任者。
―ローグ・エージェント…暗躍するソ連の軍人。
一九七五年、八月:ニューヨーク州、マンハッタン、イースト・ヴィレッジ
「またお前か」と苛立ちを隠さずケインは言った。もう会うつもりもないし会うはずもないと思っていた男からの電話だ。まあ対面していないだけましだが。
そもそも何故番号を知っている?
「番号は簡単に調べられるものだ」
マット・ギャリソンの電話越しの声はどこまでも鬱陶しく思えた。心を読まれたかのような先回りは更に鬱陶しかった。
「用事は?」
どうせならとケインは即座に本題へと持っていった。今日はかなり雨が降っており、昼間だが外はよく見えない。
「話が早いな」と言いながらギャリソンは煙草をふかしていた。
「黙れ、早くしろ」
受話器の向こうからやれやれという風な溜め息が聴こえた。全部聴こえるというのは苛々するものだなと文明の利器を嘲笑った。
「ケイン、君がヴェトナムで見たというソヴィエトの回し者によく似た特徴の人物がアメリカ国内で確認された。例の超人兵士のような男だよ」
それを聞いてケインははっとして、記憶があのテト攻勢へと戻っていた。仲間達の死…ブキャナンの裏切り、四人のエクステンデッドらしき兵士達、そして…。
「私にどうしろと?」
「そうだな…君はヒーローだし、そういう危険人物の事は気になると思ったのでね」
「お前の手勢にでもやらせればどうだ? 私はお前が奇妙な超人兵士達を保有しているのを知っているぞ、そもそもお前が自分で計画を公表したしな」
嫌な空気が流れた。外は土砂降りで、しかしギャリソンがいるであろうロスアラモス国立研究所周辺はそうでもなさそうであった。
「…今彼らはちょうど調整中でね。近い内に軍の高官達とも予定を話し合う必要がある」
それが本当かどうかはわからなかった。見え透いた嘘にも聞こえたし、あるいはそうでもないのかも知れなかった。
「まあ確かに、私はお前が言うようにヒーローだ。ネイバーフッズはこの国を拠点とし、主にニューヨークを中心に活動している。確かに、見過ごしてはおけない事だ。そいつはどこにいる?」
ケインはさっさと電話を切りたいのでぞんざいに話していた。
「彼はブルックリン周辺で目撃されたとの事だが、そこからの足取りは不明だ」
見失ったような言い方をしているが、ロシア人はわざと束の間姿を見せたのか?
数十分後:ニューヨーク州、ブルックリン、ウィリアムズバーグ
ケインは土砂降りの中ブルックリンへ向かった。ネイバーフッズの仲間達には事情を説明し、一人で調査に向かうと伝えた。バイクで雨の中を走るのはそこまで好きでもなかった。
雨の方はブルックリンに着いた辺りで小雨決行へと変わった。
ウィリアムズバーグは近年治安が悪化しており、警察や区の悪戦苦闘が続いていた。それはそれとして様々な人種なり民族なりがそれなりに共存していた。
第二次大戦の頃にはヨーロッパから様々な移民がアメリカにやって来た。その数はおよそ一八万から二二万人と考えられているが、ともあれこの地にもそれらの人々はやって来た。
ハシディズムのユダヤ人、ハンガリーやルーマニアからの人々…。
プエルト・リコやドミニカから移って来た人々、ロシア人、中国系等のアジア系もそれなりに見られた。
この国の人々は大抵の場合は人種や民族で固まるものだ。まず人種なるものが参照され、次に民族なるものが参照されて集団を形成する。
しかし少なくともこの地においては、様々な人々がそれなりに混ざり合って暮らしているように思われた。完全ではないにしても、共存があり、逞しく生きていた。
ケインは労働者がしそうな格好をして、背中には鞄を担いで歩いていた。中には持って来た非殺傷弾のショットガンが入っていた。
目立たないように、しかし地味過ぎて逆に目立ってしまわないように。ケインは通りを渡りながら目で周囲を見た。
ギャングらしい身なりの若者が見えた。白人と黒人とラテン系の若者が混ざっていた。皆半袖のジャケットを羽織っており、ケインは彼らの注意を引く前に視界から消えた。
彼は不意に近くの建物に入った。入ってすぐ階段になっており、彼は誰もいないその建物を登って行った。
やがて屋上に出て、そこからは街並みや巨大なビル街、それに横たわる巨人じみた橋が見えた。
「出て来い」とケインは言いながら鞄を開けてショットガンを構えた。
「さすがだな」
その声と共に何者かがずしりと屋上に降り立った。雨はまた強くなり、びしゃびしゃと打ち付け始めた。
「ふん、上の命令ではアメリカの量産された超人兵士を探れとの事だったが…まさかまたお前が出てくるとはな」
ロシア語訛りの英語で相手は言った。
「そうだな。型落ち同士仲良くしようじゃないか」
ケインが銃を向けた方向には巨漢がいた。雨風とフードで顔が見えにくいが、しかし改造された視力でなんとか視認できた。その男はフードを外して頭部を露出させた。
「おっと、腕は繋がったのか。痛かったろうになぁ。だがあいつらも使えん奴らだな。まあ俺の事はローグ・エージェントとでも呼ぶがいい」
相手は煽るようにそう言った。更に雨は強まり、風でどこかの窓ががたがたと震えていた。
「お前は金をけちったせいで私とまた会う羽目になったわけだ。お前自身だってそう大した賃金でもないんだろう? 共産主義を殊更どうこう言うつもりは無いが、お前の任務は割に合わないぞ」
彼はそう言いながらショットガンを発射した。
復讐が心の中で成長しようとしていた。そうであってはならない。個人的な恨みで戦っては勝てない。
誰かのための報復でなくてはならない。例えばこれからこいつが傷付けるであろう誰かの…。
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