第13話 見えないレイピア

登場人物

―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞めた超人兵士。

―謎の忍者…ローグ・エージェントが放った刺客



一九七五年、八月:ニューヨーク州、ブルックリン、ウィリアムズバーグ


 ケインはここ最近の事を振り返ってみた。『イージー・ライダー』『時計じかけのオレンジ』『燃えよドラゴン』『ジョーズ』などの映画を見て、それらのシーンは確かに鮮明に残ったものだ。だが、今この瞬間は?

 これはリアルな闘争なのだ。大の大人が本気で殴り合う、そのような死闘なのだ。これは彼にとっての現在直面している現実であり、映画では味わえない真の緊迫感があった。

 ここで勝たなければ己どころか、無関係な市民が殺されるかも知れない。

 さあ、頑張れよ――ケインはへっぴり腰のような、腰を後ろに突き出した構えを取っていた。

 突き出された拳から目に見えない剣が伸びているという感覚を持ち、相手と距離を詰めた。やがて、空想上の触覚とも言えるその架空の剣が忍者の拳と触れ合った。

 その瞬間ケインは踏み込んで打撃を放った。相手に逸らされつつ次々打ち込み、ボクサーが相手のガードの薄い箇所を探るように連撃を放つように攻撃した。

 相手の膝を肘で迎え撃ち、それがかち合った状態で数秒間鍔迫り合いのように膠着した。

 それから少しだけ両者は距離を離し、再び構えた。ケインはまたもサルヴァトーア・ファブリスの構えを取り、相手は姿勢の高い日本拳法のような構えを取った。

 黒い装束の忍者はじわじわと間合いに近付き、ケインの先程の間合いの外から狙って来た。

 忍者の蹴りは下段がフェイントで上段に数発飛来し、ケインはそれを突き出した腕で捌いてから己も蹴り始めた。

 互いにキックの応酬を行ない、掴み合って投げようとしたがそれも叶わず、それから再び互いに距離を取った。

 ケインがへっぴり腰で構えると相手はあの壊す目的のローキックを少しだけ上に上げて腕を狙った。

 ケインは相手の足の甲に己の手の甲で打ち合い、次に脚を狙って来たものをパンチとキックの両方で迎え撃った。

 突き出された膝を捌いてからその脚を強引に伸ばさせて、肘で上から打ち下ろして折ろうとした。

 またも折れはしなかったがダメージが通り、それから相手の股を前後に開かせるように開脚着地させて関節にダメージを与えようとした。

 不意にこのような無理な姿勢と取らされると痛みはあるし、ケインが狙った通りの効果があったので、彼は腰を衝いた状態の忍者を右手のみで攻撃した。

 鼻のある正面、顎、右側面、左側面をそれぞれ拳のあらゆる硬い箇所でスムーズに殴り、ハンマーに見立てた拳の小指球を脳天に振り下ろして強引に姿勢を低く崩させた。

 それから右に一回転しながら両手を衝いて一瞬だけ三足歩行状態を経つつ右脚を突き出すような破城鎚じみた蹴りを放った。

 相手はまたも吹き飛ばされ、廃車として乗り捨てられたままの車に激突した。


「弱いな、その程度か?」ケインはあくまで見下す事にした。相手は詳細不明だが、しかし街中でいきなりやり始めるような奴の仲間か何かだ。嫌な輩であり、そして市民に犠牲を強いる可能性が高い。つまりろくでもない。

 震えるようにして忍者は立ち上がった。全身の装甲は既にかなり破壊されていたが、それでもまだ顔面を覆うマスクで素顔は見えない。だが相手が怒りに燃えているのはわかった。

「まだやるか? 降参しないのか? 上等だな」と言いながらケインはスタンダードなスタイルの構えを取ってボクサーのようにステップを踏んだ。

 相手がヤクザの使いそうな匕首らしきナイフをどこからか抜き、その刃が雨の中で煌めきながらくるくると回転するのを見た。

「来い、何かできるならやってみろ!」

 そう言うとケインは軽く地面を蹴って前進し、相手もまた猛烈に走り寄った。順手に握った刃を横から刺そうとして来たが、ケインは腕を相手の腕に当ててそれを喰い止めた。だが別の方の手で顔面を二発殴られ、お返しに頭突きで相手の脳を揺さぶった。

 距離が自然と離れ、相手はナイフを構え直した。ケインはわざとらしく首をぼきぼきと動かして挑発した。

 構えておらず、それは相手の判断力をやや鈍らせた。走り寄る相手の膝を押し出すようなキックで強烈に痛打し、ジャンプによる落下の威力を乗せた右の拳で頬を殴った。

 相手がナイフと逆の腕を高速で動かしつつ斬撃・刺突及び打撃や裁きを入れて来たのでそれに対応した。

 下からの腹部を狙う連続刺突を両腕を使って阻止し、その腕を捻って相手を行き違うようにして前に進ませた――これで背後から攻撃できる。

 ケインは忍者の背骨から横に拳二個分の位置を刺すようなパンチで攻撃し、それから首の後ろに重たい肘を喰らわせた。

 頚椎にダメージを与え、逆手に持ち替えつつ振り返りながらのナイフの刺突をしゃがんで回避した。

 映画のものよりも高速の連打するようなナイフ攻撃を、腕を掴むようにして叩いてその軌道を逸らし続けた。

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