第23話 再戦、照り付ける太陽の下で

登場人物

―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞めた超人兵士、ヒーローチーム「ネイバーフッズ」の臨時リーダー。

―ローグ・エージェント…暗躍するソ連の軍人。



一九七五年、八月:ニューヨーク州、マンハッタン、停泊中の貨物船上


「さて…今度はなんだ? また下らないお前のお遊びか? また腰抜けみたいに他の誰かを寄越す気か?」

 停泊した大きな貨物船のコンテナの上で二者は対峙していた。身長六フィートを悠に超えるメタソルジャー、そして身長は七フィートにも近くどこか機械的な雰囲気のローグ・エージェント。

「あえて否定する必要も無いな」

 ゆっくりと互いの周囲を回りながら、ネイバーフッズの臨時リーダーであるケインすら子供に見えるソ連の超人兵士はそう言った。じりじりとした空気感があり、空はこの前と打って変わって晴れていた。やや夕方近い快晴の下で、ケインは相手の出方を見ていた。

「ふん、お前は随分お前の国から暇を出されているみたいだな?」とメタソルジャーは肩を竦めた。この前とは違ってネイバーフッズのヒーローとしてのコスチュームを纏い、ケイン・ウォルコットである以上にメタソルジャーであるという実感を相手に与えていた。

 当然だが公共の眼前の会見でケインが己の身元を明かしているため、ローグ・エージェントもそこで公表された情報については知っているし、またケインがヴェトナムで活動していた時の東側が知り得ていた目撃情報も知っていた。

 そして先日対峙し、更には己が用意していた忍者と戦わせてその結果も見届けた――メタソルジャーとかいうヒーロー気取りのケイン・ウォルコットは信じられないような強さを見せた。それがソ連の超人兵士にとっては大事であるらしかった。

「俺には俺のすべき事があるという事だ。まあ…たまには楽しみもあっていいだろうと思うがな――」

 そう言いながらロシア語訛りのやや巻き舌の英語で喋る大男は不意に高速で銃を抜いた。

 ケインはその弾道を目視できたし、何より既に身構えていたので弾丸が通る箇所から体をずらした。

 一瞬の事であり、銃弾が空振って明後日の方向へと吹っ飛んでいったのを契機にケインもまた相手と同じ『アメリカの』銃を抜いて射撃を見舞った。

 だが相手が銃を持っていない方の左手を高速で動かすのが見えた。銃口からの硝煙の向こうで、要塞のような体格のその男は手の甲を盾にして射撃を防いだらしかった。

 血が手の甲から流れていたが、しかしそれを気に留めている風にも見えなかった。

 やはりあの軍艦の装甲に激突したかのような感覚は相手の異常なまでの強化手術を裏付けていて、そして今の眼前の光景はその動かぬ証拠であると言えた。ケインは薬物投与を中心とした肉体改造を受けた。

 しかしこのローグ・エージェントとやらはもしかすると信じられない事にその皮膚の下かあるいは骨格かその両方かはともかくとして、人体の内部に何かしらの強固な物質を埋め込んでいるように思われた。

 もしかすると自然に、それこそエクステンデッドやヴァリアントとしての能力で超人化しているのかも知れなかったが、なんとなくそうではないような気がした。

「そちらもヴァリアントやエクステンデッドなのか?」とケインは言いながら相手の周囲をゆっくりと回った。今度は相手は動かず、振り向きもしなかった。

「際どい質問だな! 差別だと騒いだ方がいいか!?」と相手は茶化した。

「私はヴァリアントの友人がいる。無論それだけでは何の意味も無いが、その意味を噛み締め、彼らにも当然払われるべき敬意を払うようにしている」

「『彼ら』、とは何やら含みがあるように聞こえるものだな」

 ケインの方を見ないままで相手はそう言った。まるで嘲笑うかのように。照り付ける陽射しは並べられたコンテナの上の平面上を容赦無く炙ったが、当然ながら時刻が時刻なので勢いは弱っていた。

「私をからかったり、それとも何かのスキャンダルでも作りたいのか? 私はエクステンデッドの超人兵士で、ヴァリアントとは違う他者だ。それは事実であり、その上でどうやって付き合い、共存するかを考え続けるべきだ」

 すると相手は両手を上げた。

「別にそういう議論がしたいわけじゃない。まあお前はそのごっこ遊び連中を率いるだけの高潔さはあるらしいな――」

 敵はまたも不意に射撃を見舞った。巨躯の割にとても早く、二六五ポンドもの体重がある筋骨隆々たるケインがまるで子供に見えるその巨漢は顔を向けぬままで正確に撃って来た。ケインの射撃程正確ではないものの、しかし命中コースであったので彼は前転して回避しつつ反撃で撃った。

 だが相手もずれるようにして弾道上から回避した事には驚き、それが表情に出た。いつの間にか振り向いていたその男はケインを満足そうに観察した。

「どうした? お前だけにできる芸当だとでも思っていたのか?」

 ケインは少し腰を落としつつ両手で拳銃を構え、照星の向こうから相手を睨め付けた。陽射しを跳ね返すように立っているその巨漢はこの前の忍者よりも強敵であるように思われた。

 相手の目的がよくわからないのも嫌であったが、しかしそれどころでも無いらしかった。

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