第24話 格闘的射撃
登場人物
―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞めた超人兵士、ヒーローチーム「ネイバーフッズ」の臨時リーダー。
―ローグ・エージェント…暗躍するソ連の軍人。
一九七五年、八月:ニューヨーク州、マンハッタン、停泊中の貨物船上
正直なところケインはかなり驚いていた。相手もまた、弾道が見えるとかそういう異能を持っているのか。あるいは超人兵士として改造を受けた事で、向けられた銃口からどこに弾が飛ぶかを計算できるのか? わからなかったので色々と考えたが、それは別に重要ではないような気もした。
最も重要なのは相手が一体どれだけ強いかという事であった。強敵なのはわかっていた。具体的にはどれぐらいか。暴走後のあの忍者よりも厄介そうか? そうかも知れなかった。ケインはさっと銃口を地面――彼らが立っている赤い塗装の金属コンテナ――に向けた。
即座に発射された銃弾は彼が予定していた通りに地面で跳ねて、それから相手の右膝に当たるはずであった。しかし相手はそこから脚をずらして躱した。その動きはケインのそれ程洗練されていないようにも見えたが、しかし反応速度自体は早かった。跳弾を狙うと見抜き、その上で当たらない位置に脚をずらす。
四五口径弾は❘
不意打ちとそうでない場合には大きな差が出るものだなと今更ながらに思いながら、ケインは相手の銃を持つ右手の内側を左手でぱっと叩いて強引に逸らし、明後日の方向へと発射されたそれを契機に両者は似たような捌き合いに興じた。
ケインが相手の脇腹へと差し込むようにした銃口は超人兵士の丸太のような腕から生えている手で力強く逸らされ、傍から見れば鍔迫り合いでもしているかのように両者は両手で互いの銃を上に掲げさせた。それからまたも素早く捌き合った。射撃はしかし互いに当たらず、緊張感のある時間が流れた。
至近距離で己のものではない拳銃が発砲されるという恐ろしい状況が続き、しかしそれは彼らにとっては日常なのかも知れなかった。ケインは目の前のかつての仇と特別な因縁が形成されていくのを感じた。忌むべきものだが、しかし言いようのない感情があった。
無論、止めなければならないのだが。
すぐに両者弾切れとなり、彼らはかちかちと空になった引き金を引いた。ケインは空中で後転して下がった。
「なかなか楽しいものだな!」とソ連の屈強な超人兵士は言った。彼の巨躯を見るとケインは己が子供のように思えた。体格では明白に負けていたが、しかし腕力では負けていなかった。
「お前が異常者で、明らかにこの国に危害を加えようとしているのでなければ楽しかったかもな!」とケインはやけになって叫び返した。あの雨の日と同じように、しかし距離は離れていなかったが。
「どうする? このまま次のラウンドに向かうか?」
巨漢は腰から予備のマガジンを取り出した。
「万が一誰かに当たりそうだからこちらとしてはやめておきたいが」とケインは警戒しつつ言った。
「当たらないためにこんな場所を選んでやったんだが…お前ならそう言いそうだったしな」
ケインは相手がメタソルジャーとしての己を分析している事を感じ取った。あの大雨の中で、奴はこちらの戦い方だけでなく、ヒーローとしての考え方も見抜いていたのだ。
「まあいい。それなら…」
敵はマガジンから指で弾を弾き出し始めた。ケインは己の分のマガジンを取り出した。相手は一旦作業を止め、銃を手で分解し始めた。ガバメントのスライドを取り外すのを見てケインもそうした。
相手が銃のパーツをぞんざいに捨てるのを見てケインもマガジンを滑らすようにして投げ捨て、それから分解したパーツを落とすとそれを足で払うようにして蹴った。
相手はやや勿体ぶって銃弾を処理し、そして最後の一発を取るとマガジンを投げ捨て、弾を手の上でコインのように投げた。三度投げたところで落下するそれを相手は強靭な肘で打ち、飛来したそれを横合いから弾きつつすうっと態勢を斜めにしたケインに、相手はフットボール選手のように突進した。元々距離は三メートル少々。
第二ラウンドは恐らく殴り合いになるらしかった。それはいい。己ら以外を巻き込まないで済みそうだ。
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