第36話 東側の鉄砲玉にされたかつての同僚
登場人物
―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞めた超人兵士、ヒーローチーム「ネイバーフッズ」の臨時リーダー。
―ローグ・エージェント…暗躍するソ連の軍人。
―ブキャナン…ヴェトナム戦争時のケインの元同僚、アメリカを裏切って東側に亡命した男。
一九七五年、八月:ニューヨーク州、マンハッタン、停泊中の貨物船上
ブキャナンはちらりとケインの方を見てきた。脚の方を見ている。じりじりと距離を詰め、それから強烈なキックで脚を狙ってきた。この蹴り方はかなり本気のようであった。
ケインは脚をずらしてそれを回避し、それから相手のパンチのコンビネーションを捌いた。だがどうにも何かの伏線であるように思えた。
一旦距離を離し、打撃を放とうとするふりで手を動かして、相手の反応を見た。即座に反応する動き。
それからまた視線を辿った。下半身、それもかなり下の方を見ている。脹脛か、脛の正面か。
ブキャナンが踏み込んで来た。かなり速い。下段を狙う蹴りはしかし中断され、それから胸元へ。飛来したそれをケインは腕で防いだが、防がれると同時にブキャナンの脚はケインの顔面へと…。
まあ、ケインには当然それが読めていたわけであるが。
顔面を狙うキックを即座に鷲掴みし、それと同時にすっと踏み込んで顔面に一撃を入れた。唇を含む顔面の斜め下方辺り。歯で口内を切る事に期待した。
ペースを崩されるという不快感を与えろ。まだ痛みを流し込む必要は無い。焦りと苛立ちを与えろ。
ブキャナンはかつて一緒に戦っていた時もむすっとしていて、怒りっぽいところがあった。かつてケインの事をヴァリアントだと勘違いして――誰かをヴァリアント扱いする事が侮辱の形態として成立するのは実に差別的で悲しい事だ――突っかかって来た。
その時の事を思い出せ、ブキャナンを脅したあの時を。ああいう態度がよかったとは思わない。他のメンバーがいる前で睾丸を潰すと脅した。相手に実力差を教え込むような態度。
今ならそういうやり方は嫌う。まあ少なくとも、相手が凶悪犯やスーパーヴィランでもなければ。
だがいずれにしてもその時はそのように応対したという事だ。その時の屈辱が相手の中にまだある可能性もあろう。ブキャナンは思想か薬物で洗脳されているのかも知れないが、しかし彼を止めるために使えるかも知れない。
そのように高速で思考していると、ブキャナンが腕を振るって反撃してきた。下がって回避。右、左、下。それからハイキック。読めている。
目の奥に燃える苛立ちを見た。そうだ、それでいい。噛み付いて来い。餌に騙されろ。こちらの手に乗れ。
足裏による伸ばすような蹴り方。それを回避し、ブキャナンのキックは壁に当たって轟音を立てるのみであった。金属製の壁が凹んだが、それは別に大した事でもない。
横に逸れて回り込もうとするケインに腕を払うようにして追撃するが、ケインは側転して回避した。
向き直る両者。仕切り直しであった。
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