第38話 再起動、再び

登場人物

―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞めた超人兵士、ヒーローチーム「ネイバーフッズ」の臨時リーダー。

―ローグ・エージェント…暗躍するソ連の軍人。

―ブキャナン…ヴェトナム戦争時のケインの元同僚、アメリカを裏切って東側に亡命した男。



一九七五年、八月、夕方:ニューヨーク州、マンハッタン、停泊中の貨物船上


 メタソルジャーはブキャナンを離して彼が倒れ込むに任せ、脚をぶらぶらさせて上から様子を観察していたローグ・エージェントへと向き直った。

「お前の下らないお遊びは今回も終わったな。ブキャナンを使ってどうしたかったのかは知らないが…私の憎悪でも掻き立てようとでもしたのか? だったら、そうならなかった事を謝った方がよかったか?」

 ケインは皮肉を言いながらも、しかしその言い方には気を付けた。ただの皮肉でいろ。感情的にはなるな。相手は止めるべき悪であって、憎悪する必要は無い。そうだ、それでいい。

「いや、その必要は無い。お前はまた俺を楽しませてくれたしな」

「殴り合ったりニューヨークを核で脅かすのが楽しいと?」

「お前も気付いているだろうが、俺はそういう奴だからな」

「そうか、お前が邪悪だという事を忘れていたよ」

 だが、相手は是が非でも計画を実行したいようにも見えない。それはつまりゲームはゲームであって、悲願ではないとも言えよう。ならば止められる。

「だが…」と言いながら、ソ連で改造手術を受けたと思わしき巨漢は懐から何かを取り出した――またあの何かのスイッチのような装置。

「やめろ――」

「――もっと早くそう言え」


 ブキャナンがその途端、意思に反して立ち上がらされるのが視界の端で見えた。まただ。またこのパターンなのだ。

 前回の忍者に続いて、次は国を裏切った男が。ローグ・エージェントは明らかに狂っているが、実際に問題なのは核爆弾を使おうとしたり、こうやって無理矢理配下を戦わせようとしてくる事だ。

 恐らく、ここで本人が諸共死ぬつもりなら、ニューヨークで起きた核爆発はソヴィエトによるアメリカへの先制攻撃としてアメリカが受け取るよう、何かしら手を打ってくるはずであった。

 全面核戦争の序曲を見届けながら死ぬのが望みなのかも知れないが、最悪だとしか言えなかった。

 映画の狂った悪役と違ってローグ・エージェントは現実の脅威として立ち塞がる。ああ、最悪だ。

 ブキャナンを無理矢理戦わせて、ブキャナンが勝てばそのままブキャナンに核爆弾を起爆させるつもりなのではないか。多分そういうゲームなのであろう。

「まあそんなに怖い顔をするな。そいつを倒せばお前の勝ちという事だ。一騎討ちの結果でこの街が吹き飛ぶかどうかが決まる、シンプルだろう?」

「ふざけるな、お前の妄想の中でやっていろ」

 ケインはブキャナンと対峙しながらそう言い返した。夕陽が差し込む中で二人の改造兵士が向き合って立っており、それを別の改造兵士が眺めている構図であった。

 最低な焼き直し展開だなと考えたが、残念な事に英雄叙事詩などは同じような展開が意図的に繰り返されるものだ。まあ、現実に起きなければ別にそれでもよかったのだが。

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