第43話 不貫徹の九州性
登場人物
―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞めた超人兵士、ヒーローチーム「ネイバーフッズ」の臨時リーダー。
―ローグ・エージェント…暗躍するソ連の軍人。
―ブキャナン…ヴェトナム戦争時のケインの元同僚、アメリカを裏切って東側に亡命した男。
一九七五年、八月、夕方:ニューヨーク州、マンハッタン、停泊中の貨物船上
ブキャナンがシミュレートされた打刀を高く掲げるのが見えた。奇妙な構えであるように見えた。確か一部の日本剣術にあのような構えがあったような気もするが、しかし高過ぎた。直立すらしていた。
記憶を頼りに恐らく九州地方の剣術であろうと考えつつ、それの技を想定した。記憶を頼りに構築しろ。シミュレートしろ。
ケインはそれがどのように作用するか理解可能であるように思えた――その瞬間、掲げられた刀ごとブキャナンが急速接近して来た。
今までで最もブキャナンの見せた動きとしては洗練されているのがわかった。踏み込んで、それから刀を振り下ろす。一撃で終わらなかった場合は相手が倒れるまで連打するのであろう。
ケインはあえて棒を己と相手の間に置かず、己もまた棒を斜め後方へと掲げるように構え、やや腰を深く落として迎えた。
ケインは互いの武器を振り下ろして打ち合う事を考えた。完全に振り下ろされる前に激突する。
しかしインパクトの瞬間、激突の衝撃が少ない事に彼は不審さ、そして不誠実さを感じた。半端者め、と思ってしまった。
ブキャナンは一度目の打ち合いがかち合ったところでそれ以上は上から打たなかった。ケインはブキャナンの軌道を読んでいた。悲しい事に、あの洗練された技はただの起点であった。
そこから別の方向の攻撃へと繋げる。かち合った瞬間に別方向から斬る。だが、そのような事をすべきとはケインには思えなかった。
ケインは片手でブキャナンの刀を握った両手を掴んだ。万力のごとく、そこから動かなかった。
己をそのまま貫かず、小手先の技に頼った事が残念であった。ブキャナンよ、お前はそのまま九州的であるべきであった。
一太刀で終わらぬなら次に次にと打ち込むべきであった。次の手のためのフェイントとして使うには、その技については洗練され過ぎていた。そこを軸にすれば、もっと勝負は拮抗したであろう。
だが、これでよかったのかも知れなかった。
「自分の主体性がお前には足りなかったのかも知れないな」
ケインは信じられないという風な表情で受け止められたままのブキャナンに優しくそう言った。まあ、勝負は勝負だ。『男らしい』ぶん殴り合いを仕掛けてくるなら、逆に粉砕される事も受け入れろよ。
「お前の私への復讐が未遂に終わるのは残念だが、これも結果だろう」
言いながらケインは頭突きをお見舞いした。それから即座にブキャナンの手首へと逆側の腕を叩き付け、シミュレートされた刀を落とさせて、それを想像できないよう中断させた。
既に無手へと戻っていたケインは、そこで相手を解放した。
「お前の負けだ。お前はまたも、プライドを粉砕された。だが、私はこれがお前の望んだものだと思っている」
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