第44話 それぞれの復讐の終わり
登場人物
―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞めた超人兵士、ヒーローチーム「ネイバーフッズ」の臨時リーダー。
―ローグ・エージェント…暗躍するソ連の軍人。
―ブキャナン…ヴェトナム戦争時のケインの元同僚、アメリカを裏切って東側に亡命した男。
一九七五年、八月、夕方:ニューヨーク州、マンハッタン、停泊中の貨物船上
ケインは再びブキャナンを下した。仲間の仇であり裏切り者であり、刃を研ぎ澄ませられなかった哀れな男。これで決着なのだ。もし個人的な復讐がしたかったのであれば、奴のプライドを圧し折った事で満足すればよい。
旧来的な『男らしさ』『舐められたら容赦しない』という世界でしか生きられなかったブキャナン――そして残酷な事に、結局彼自身はローグ・エージェントに逆らう事はできず、その勇気も無かったのであろうが――を救ったという実感があった。
そこから退場させて、肩の荷を降ろさせる事ができたと感じた。粉砕してやる事も時には慈悲として作用するのだ。
「結局、お前には勝てなかったか」とブキャナンは座った状態でそう言った。船上から夕陽を眺めるその表情はしかし、今までに無い程穏やかであった。
「私も北ヴェトナムには勝てなかった。今では別に勝てなくてよかったと思っている」
それを聞いてブキャナンは少し
「そうかもな…」
西側対東側という構図とその不毛さ――巻き込まれた国々を見よ――について考えてから、不意にブキャナンの目に後悔が滲んだ。
「俺はこれからどうなるんだ?」
「正直、私にはわからない。終身刑かも知れないし、極刑かも知れない」
「まあ、結局それも俺の選んだ道だからな」と諦観混じりにブキャナンは言った。
「お前はもしかしたら俺を哀れんで、『こいつは腕っ節の強さが物を言う世界でしか生きられなかった』と考えているかも知れないが、それにしたって結局は全部俺の責任なんだ。第一、舐められたとか屈辱を受けたからって、アメリカのために命を捧げる軍人が国も家族も捨てて寝返ると思うか? 結局は俺が選んだんだよ。そういう生き方を続けていようが続けていまいが、俺には実際のところそれ以外の選択肢もあった。ただ、俺はお前が気に入らなくて、お前に復讐したくてそれ以外の選択肢を蹴ったのさ。
「俺がもし昔気質の『男らしさ』を貫くなら、俺は軍人として精一杯奉仕を続けて、妻を守り、あいつが待つ家に帰るべきだった。俺はお前との確執に拘り過ぎて、その『古き佳き』なんとかかんとかみたいな価値観にさえ背を向けた。俺は重い刑を下されても何一つ文句が言えないんだ。俺はこの国を裏切り、俺の周囲にいた全員の顔に泥を塗ったんだ。それだけじゃない、俺達と戦うために命懸けだったヴェトコンや北ヴェトナムの連中にも唾を吐いたも同然だ」
ブキャナンの淡々とした、しかし重苦しい告白をケインは
「そうか…私の責任は、隊長としてお前ともっと話しておくべきだったという事だと思う」
「過去に戻ればもっと話せたと思うか?」
「それは、わからない」
ケインは己の責任を感じながらも、しかし無力感も味わっていた。もっと話し合うだけの根気が本当にあの時存在したのか、自信が無かった。
結局は、厄介事を避けていただけではないのか。
そこでいきなり、手を打ち鳴らすような轟音が響いた。ある種の絶対者じみた魔人が、上からそれらのやり取りを見ていたのだ。ブキャナンはその音にびくりと反応した。
「話の途中で悪いが…ちょっと俺も飽きてきたんでな」
METASOLDIER――弾道が見えてもその動きはおかしいだろ系ヒーロー シェパード @hagezevier
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