第41話 棍棒外交
登場人物
―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞めた超人兵士、ヒーローチーム「ネイバーフッズ」の臨時リーダー。
―ローグ・エージェント…暗躍するソ連の軍人。
―ブキャナン…ヴェトナム戦争時のケインの元同僚、アメリカを裏切って東側に亡命した男。
一九七五年、八月、夕方:ニューヨーク州、マンハッタン、停泊中の貨物船上
長大な柄を持つ剣を構えるように、ケインは存在しないクォータースタッフを下から斜め上前方に向ける形で構えた。相手との距離で高さを調整し、それ自体を触覚やセンサーとして使った。
相手が上段に構えるのを見た。踏み込もうとする動き。ケインはさっとシミュレートされた棒の先端を動かして相手を牽制した。即座に反応して中断する動き。
では
ブキャナンは外部から注入された技量によって可能となった架空の刀剣のシミュレートには適応できているらしかった。彼はメタソルジャーの伸ばされた棒の先端の方を、刀を素早く操作してそれの切っ先の横腹でばしばしと叩いた。
ケインは反応しなかった。まだだ。まだ噛み付きが浅い。もっと来い。もう一度。
ブキャナンがまた探るように、架空の武器同士を接触させてきた。今だ。
ケインは突如高速で動いた。死んでいるのか否かの確認で軽く叩かれていた生物がいきなり起き上がって襲い掛かるかのように、踏み込みながら棒の先端部で連撃を放った。
ブキャナンは後退しながらそれを捌いたが、やや大振りでケインが脚を打とうとする動きに釣られてそれを防ごうとした。ケインはその攻撃を中断しながらクォータースタッフの逆側を素早く動かしてブキャナンの顔面を殴打した。
さて、と元アメリカ軍の超人兵士は思った。どのような流派かは知らないし、あるいは複合剣術なのかも知れないが、確かにブキャナンは何かしらの日本剣術を仕込まれているのであろうと思われた。
だが、古い時代の名高いツカハラやヤギュウの手練れはこのような程度ではあるまい。また、現代でももっと技量で勝る者も日本にいるであろう。
やはり素手での時と同じなのだ。ブキャナンは元々それ程武術に通じていたわけではあるまい。あくまで、寝返ってから役割を与えられた際に洗脳と共に施された訓練ではないか。
先日の忍者よりも技量では少し劣っているように思われた。ケインはふと、彼をどう捉えるべきか悩んだ。
明らかにブキャナンは使い捨ての駒としてローグ・エージェントに使役されている。結局のところ、彼はまたこのままプライドを圧し折られる事になるのではないか。
では、裏切って家族を危険に晒してまで東側に行った彼の人生とは一体なんであるのか。そもそも、ローグ・エージェントは本当にソ連や東側の利益のために動いているのかも定かではなかった。
そのようなある種のスーパーヴィランの手先として使われ、娯楽のために戦わされ、その上で恐らくケインには敵わぬなれば、彼の人生とは一体どのようなものであるというのか。
著しく主体性を破壊された彼の人生を、ヒーローとして手助けするべきであろうか。恐らくそうすべきであろう、裏切って仲間を殺した事を脇に起き、憎悪のその先で助ける。
なるほど、ヒーローとは大変なものだ。そしてそれで結構。
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