第18話 更なる変異、迎え撃つはサイエンス・オブ・ディフェンス
登場人物
―メタソルジャー/ケイン・ウォルコット…軍を辞めた超人兵士。
―謎の忍者…ローグ・エージェントが放った刺客
一九七五年、八月:ニューヨーク州、ブルックリン、ウィリアムズバーグ
ケインは相手の肉体強度を把握していた。相手は決して無敵ではない。すなわち、幸運にもその程度の相手という事だ。少なくともこちらの打撃は全く効果が無い、という事は無い。
一見打たれ強くとんでもない
もし相手の耐久性がそれこそ彼の行方不明のチームメイトであるモードレッドと同じぐらいであれば、話は違った。だが相手はそこまで頑強ではなかった。
ならば少なくとも、不完全な技の再現でも通用するはずだ。時間概念についてはディフェンス術の達人であったフィグの弟子ジョン・ゴッドフリーとて考察していた事だ。
イギリスではある程度広く知られる概念であったが、しかしケインは己の技量でシルバー的な
だが片方だけを実施するなら可能であった。相手の精神を婉曲的にコントロールすればいい。心理的に追い込めばいい。そうすれば対処はできる。殺さなくても無力化できる。
「大した事も無かったな。それが全力か?」とケインは相手を挑発した。「ドーピングとしては手緩かったな。お前のそのしょっぱい衝撃波の数々は何か意味があったのか? パフォーマンスか? 笑わせるな。私か? 私のドーピングはお前よりも上だ。その薬を作った奴の事は気に入らないが、結果は見ての通りだ。結果は言葉以上に雄弁だな?」
ケインの朗々たる声が大雨の中を切り裂いて響いた。
その言葉は実際に先程、怪物化した忍者の放った地面を抉り建物を粉砕する衝撃波を無力化した事で現実味があった。暗に示される実力差があった。
「さて、そこの腰抜け。お前にできるのはそうやって遠くからそよ風を作るぐらいか? さっきの打撃技はどうした? もしかして、私と戦うのが怖いのか? 私と近距離で、無手で戦うのが怖いか? それならお前のその筋肉はただの見掛け倒しという事だな――」
それを遮るようにして咆哮が響いた。探検家が夢想した未知の怪物のそれじみたものが辺りを満たした。
それと同時に、力が込められた怪物の両手から不規則に爪が生えた。なるほど、相手はやはり奇妙な術が得意だ。周囲の物質を変換したりして己の肉体を増量しているのか? まあそれはいい。
爪の長さは五フィート程あるようであった。まるで槍か、あるいは長柄の剣か。
そして空気が破裂したかのような視覚効果があった――音より速いか否かで、相手はこちらに到達して来る。だが読めていれば対応できる。
野球のバッターと同じだ。わかってさえいれば、とんでもない速さでも対応できないでもない。
ケインは突き出された爪を躱しつつ膝で蹴り上げた――立てていた予定を予定通りの時間に実行しただけだ。
それは相手の突き出されつつも空振りした爪に下から激突し、数本纏めて叩き折り、それと同時に相手の爪の付け根にも極度の負荷が掛かった。
要するに激痛であった。爪は特に長い物も含めて叩き折られて地面に落ち、ケインはその結果を見てから『上手い事爪が折れた時にする手順』を実行した。
つまり彼はそれを拾い上げ、両手で構えた。相手は今も痛みに苦しんでいる。折られたのと逆側の手で患部を抑えながら苦悶の声が漏れ、激烈な痛みが想像できた。そう、痛みを与えてやったから当然だ。
これはまだ完全な痛みではないし、その域に到達するのは至難の業であろう、しかし眼前の相手に苦痛を与えるには今の熟練度でも悪くはない。
ちなみに相手はまだ片方の爪が完全であるが、それは別に問題ではない。対処できるならそれでいい。
「おっと、痛かったか? 私は寛容だから待ってやってもいい」
ケインはクォータースタッフ術や棍棒術を意識した。イングランドの伝統的な武器、剣豪リチャード・ピークが『イングランドの武器』としてどこにでもあるような適度な長さの棒を指定した事を思い出した。
そうだ、己はイギリスからの移民で、ついでに言うとイギリスの武術には自信がある。
そして剣のアトラスと謳われたジェームズ・フィグは、棍棒の達人であった。
相手がなんとか苦痛から立ち直り、無事な方の腕を上げるのを見て、ケインは再度ある種の『推手』じみた状況に己と相手を置いた。
じりじりとした緊張感の中で互いが徐々に交戦距離に近付いた。インパクトの瞬間までは長く、そして短くも感じられた。
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