第44話 加賀家に訪問
沙希の家を訪問する日が来た。
いつもよりしっかりとした格好で、インターフォンを押す。
すると、すぐに扉が開いた。
「怜太さんっ!」
「おはよう、沙希」
「おはようございます!」
満面の笑みを浮かべる沙希に出迎えられた。
「さっ、どうぞどうぞ!」
「お邪魔します」
出されたスリッパを履いて、リビングへ。
そこには、ついこないだ見た沙希のお母さんがいた。
「あら怜太君、いらっしゃい」
「こんにちは。お邪魔します」
「いえいえ。さっ、座って座って」
「し、失礼します」
豪華な食事が並んでいる食卓。
今日は昼ご飯を振る舞ってくれるのだ。
ふと沙希の方を見ると、頬をぷくーっと膨らませて、何やら不満げな様子。
「ちょっとお母さん! 私から怜太さんを取らないでよ~!」
「ふふっ、別に取ってないわよ?」
「むぅ~。私が案内したかったのに~」
「あらそれはごめんなさいね。でも大丈夫よ。怜太君はたぶん、沙希にぞっこんだからね?」
「お、お母さん⁈」
「ね? そうでしょう?」
「そ、それは……」
沙希が期待の眼差しを向けてくる。
……逃れることはできまい。
「ぞっこん、ですけど……」
「あらあら、アツアツねぇ」
「「…………」」
「ふふっ、二人とも照れちゃって。可愛いんだからっ」
ご機嫌な様子でキッチンに向かうお母さん。
「ご、ごめんなさい怜太さん。お母さんこんな性格で……」
「いや、いいよ。ちょっと楽しいし」
「そうですか? ならよかったです」
沙希が安心したように、見慣れた穏やかな表情を浮かべた。
▽
「はぁー美味しかった」
「それはよかったです!」
満腹になった腹を擦る。
こんなに美味しい料理を好きなだけ食べたのは、初めてかもしれない。
「これ、全部沙希が作ったのよ?」
「さすが沙希だね」
「……あ、ありがとうございます!」
「ふふっ。仲睦まじいカップルね」
「ありがとうございます」
他人、それも沙希のお母さんから言われると、やっぱり嬉しかった。
「そういえば、沙希のお父さんと海斗はいないんですか?」
「お父さんは仕事で、お兄ちゃんなら、『急に用事を思い出した』とか言ってどっか行きました」
「……カッコいいな、海斗は」
「ふふっ、そうかもしれません」
海斗なりの気遣いだろう。
……やっぱり、感謝してもしきれないな。
「それにしても、海斗から『沙希が彼氏の家に通い妻してる』って聞いたときは、びっくりしたわぁ」
「えぇ⁈ か、通い妻⁈」
海斗の奴、なんてこと言ってるんだ……。
そういえば、沙希が俺の家に来ていることを両親に説明したと言っていたが……もう少し言い方がなかったのだろうか。
「お兄ちゃん……はぁ」
「でも、私も夫に対して高校時代に通い妻してたし、なんだか懐かしい気持ちになったわ」
「そ、そうなんですか⁈」
「やっぱり遺伝子って無視できないわね」
「た、確かに……」
色々と心当たりがある。
「ちなみに……もうどこまでしたのかしら?」
「お、お母さん⁈」
「はうぅ……」
「さ、沙希⁈」
完全に沙希がショートしている。
今にも蒸発してしまいそうだ。
「あら、この様子だと……最後までいってないみたいね」
「そ、それは……け、健全なお付き合いをさせていただいてますので」
「……案外奥手なのね」
「マイペースで歩んでいく予定です」
それにしても、一体沙希のお母さんはド直球すぎやしないか?
現に、沙希が蒸発したままだ。
「……でも、孫の顔は見させて頂戴ね?」
ツッコもうとしたが、引っ込んだ。
ちらりと沙希の方に目をやってから、真剣な表情で答えた。
「……はい」
「ばふっ」
「さ、沙希‼」
「あわわわわわわわわわわわ……」
……どうやらこの手の話は、俺たちにはまだ早かったようだ。
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