第14話 元気な委員長と誤解


 昼休み。


 一年生の時は一人教室でコンビニ飯を食らっていたが、最近は違う。


 海斗たちと購買部で何か買い、四人で教室で食べるようになっていた。


「いつも思うんだけどさ、流果って野菜ばっかり食べてるけど大丈夫なの?」


「全然大丈夫だよ? ほらこの通り」


「いや腕細!」


「流果って女なの?」


「細身なだけだよ。それに、俺ベジタリアンだからさ」


 流果がそう言うと、クラスの女子数人が「ベジタリアン……」と呟きながらスマホにメモを取った。


 相変わらずの人気。


 三人の中ではダントツの女子人気を誇っているだけある。


「それに比べて海斗は……ゴツイね」


「男は黙って焼きそばパンにカツサンドよ!」


「……暑苦しいな」


「なんだと壮也! そう言うお前は……なんでフランスパン?」


「歯ごたえがたまらん」


「相変わらず壮也は不思議だね……」


 フランスパンをそのままかじる姿はなかなかかっこいいが。


 楽しく昼飯を食べながら談笑していると、一人の女子生徒が近づいてきた。


 真田美里さなだみさと

 

 水色のショートカットが特徴的で、元気溢れる三組の委員長だ。


「成宮君。日直の仕事で理科室にノート運ばなきゃいけないんだけど、いける?」


「あっそういえばそうだった。うん、今行くよ」


 メロンパンをかきこんで、水で胃に流し込む。


「サボるなよー」


「ちゃんと仕事しろよー」


「わかってる!」


 三人に見送られて、委員長と教室を出た。





「なかなかに重いね」


「そうだね……」


 さらに、三組の教室から理科室に行くには少し距離がある。


「なんでうちのクラスから理科室まで遠いんだろ~めんどくさいっ!」


「だね。委員長、少し持とうか?」


「……成宮君って、案外優しいんだねぇ」


「そ、それはどうも」


「こちらこそどーもっ! でも大丈夫! 私こう見えても、陸上部だから!」


「そっか、なら大丈夫か……って、腕の筋肉関係なくない?」


「心の筋肉が、モリモリついてるんだよ!」


「心の筋肉……」


 委員長はかなりの不思議ちゃんだ。


 心の筋肉というワードは、一般人の俺には理解できない。


「そういえばさ、成宮君って少し変わったよね」


「そ、そう?」


「うん。去年に比べて、なんか楽しそう!」


「……そうかも」


「へへん! 当ててやったわい!」


 委員長は去年も同じクラスだった。


 それにしても、俺はどうやら少し変わったらしい。


「……なんか私、嬉しいよ」


「委員長が?」


「うん! クラスメイトはやっぱり、笑顔でないとねっ!」


「……委員長は、いい人だね」


「やっぱり~? よく言われるんだなぁこれが!」


 ワハハ! と笑いながら俺の前を行く委員長。


 やっぱり元気な人だなぁと、改めて思った。





「ふぅ、仕事終了! お疲れ、成宮君!」


「委員長もお疲れ」


 少し埃が舞う理科室。


 教卓の上にノートを置いて、仕事完了だ。


「それにしても、人のいない理科室ってなんかいいよね」


「確かに」


 委員長が理科室を物色する。


 カーテンで光を遮っていて、理科室は薄暗かった。


 男の子の本能的に、ワクワクしてくる。


「あっ、成宮君! 見てこれ人体模型!」


「おぉーすごいね」


「あっ、こっちには標本が――きゃっ!」


「委員長!」


 委員長が床につまずく。


 俺は咄嗟に委員長を受け止め、そのまま床に倒れた。


「いたたたた……」


 委員長を抱きとめるような形で、床に倒れ込む。


 すると理科室の扉が開かれた。


「平田先生、今日の生物は……あっ」


 視線が合う。


 そこにはなんと、沙希がいた。


「あっ、沙希」


「……怜太、さん?」


 沙希が引きつった顔でこちらを見てくる。



 ・・・。


 

 あ。


「成宮君、その子はどなた?」


 委員長がそう言った時には、時すでに遅し。


「し、失礼しましたっ!」


 沙希が慌てて扉を閉め、駆け出していく。


 俺はその後姿を唖然として見ていた。



 ものすごい勘違いをされた気がした。

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