第4話 犬のような子
「「あっ! あの時の!」」
声が重なる。
昨日出会った男から紹介された子は、こないだ助けた少女だった。
「お、お兄ちゃんなんでこの人のこと知ってるの⁈ なんでなんで⁈」
「い、いや、たまたま昨日会って、友達になったんだよ」
友達……。
そうか、俺とこの人は友達なのか。
なんだが心が温かくなるのを感じる。
「そ、そうなんだぁ……」
「ってか沙希こそ、なんで知って……」
言いかけて止まる。
何かを思いついたのか、にへらと頬を緩ませて少女の方を見た。
「ははーんなるほどな。お前ももうすぐで高校生だもんなぁ?」
「お、お兄ちゃん⁈」
「なるほどなるほど。お兄ちゃん、なんか嬉しいよ」
「や、やめてよからかうのは! 早くどっか行って!」
「そうだな。俺たち『お邪魔』みたいだし?」
「っ~~~~‼‼」
少女が押し出すように男の背中を押す。
「そういうことだから、俺たちはお暇するわ!」
「楽しんで」
「またな」
「は、はい?」
俺に手を振りながら、公園を出て行く三人。
残ったのは、息を切らした少女と俺だけだった。
「……あ、あの」
「は、はい」
「こないだは、ほんとにありがとうございました!」
「いえいえ。その後、足の調子は……」
「もう完治しました! この通りです!」
「おぉーそれはよかったです」
「ほんとに、ありがとうございました!」
少女が二度目のお辞儀をする。
なんて律儀で真面目な子なんだろう。
「あ、あの……敬語、別にいいですからね? 私この春から高校生で……多分年下だと思うので」
「あぁーそうなんですね。じゃあ……タメ口で」
「はい!」
ふわりと桜色の髪が揺れる。
ここまで美人で可愛い子を俺は見たことがなかった。
いざこうして対面すると、妙に気恥ずかしさが出てくる。
「その……お名前、聞いてもいいですか?」
「そういえば言ってなかったね。俺の名前は成宮怜太。春から高校二年生なんだ」
「高校二年生……お兄ちゃんたちと同い年ですね」
「そうなんだ……」
同い年でここまで違うとは……。
なんだか自分が情けなく思えてくる。
「あ、あの……怜太さん、って呼んでもいいですか?」
「えっ⁈」
「……ダメ、ですか?」
「い、いや全然いいよ!」
「分かりました。よろしくお願いしますね、怜太さん?」
「う、うん……」
少女の上目遣いはなかなかに強烈だ。
それに加えてさん付け……この子は、男のツボを的確に突いてくる。
おそらく、無意識の内だろうけど。
「君のことは、なんて呼べばいいかな?」
「……じゃ、じゃあ、沙希、で!」
「さ、沙希?」
「はい!」
名前を読んだだけで、この満面の笑み。
沙希はどこか、犬に似ている。
犬の中でも……子犬。
それも、みんなから愛される、飛び切り可愛い子犬だ。
「その……怜太さん、助けていただいてあれなんですが……」
「ん?」
「レインで、友達になってくれませんか?」
「あぁーうん、いいよ」
「ありがとうございます! えぇっと……」
沙希がスマホを操作する。
俺はこういうのは得意ではないので、沙希にスマホを渡してやってもらった。
「成宮怜太……はい、登録できました!」
「お、ありがとう」
「いえいえ」
登録したばかりの沙希から、スタンプが送られてくる。
沙希に似た、犬の『よろしくワン!』というスタンプ。
……やっぱり犬、好きなんだな。
「怜太さんが初めての……えへへ」
「ん?」
「い、いやっ! な、なんでもないです!」
「そ、そっか」
「……聞こえてました?」
「いや?」
「そっか……よかった」
そんなに聞かれたくないことでも呟いたんだろうか。
沙希が聞かれたくないのなら、もちろん追及はしない。
「怜太さん、これからもよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
俺と沙希の名前のない関係が、続いていくかは分からない。
しかし、俺はまた会いたいと、確かに思っていた。
この時の俺は思いもしなかった。
思いのほかすぐに、沙希と再会を果たすことを――
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