第18話 何かしたいと思った矢先
こないだの一件があってから。
やけに沙希との距離が近くなった。
「怜太さん、寝心地はどうですか?」
「い、いいと思います……」
「ふふっ、照れてるんですか?」
「……ま、まぁ」
「怜太さんったら」
食後、まったりタイムが終了したらなぜか膝枕してくれるようになった。
もはや日課である。
というか、最近はほぼ毎日俺の家に来ている。
「……沙希? なんか最近あったの?」
「いえ? 何もないですよ?」
「そ、そっか」
「はい! 何もないのが幸せですね」
「それは同感」
何もない。
家に帰ってきて、俺のすること、何もない。
「あっ、洗濯物……」
「洗濯機回しておきました」
「あ、ありがとう」
「いえいえ。……あっ、も、もちろん怜太さんの下着は見てませんよ! 匂いを嗅ぐとか、そんなことは全然……‼」
「……なんでそんなに慌ててるの?」
「あ、慌ててませんよ?」
そう言う沙希だが、ほんの少し額に汗がにじんでいるように見える。
……最近少しだけ、気温上がったからかな。
そういうことにしておこう。
「なんだか夏の気配感じてきたよね」
「ですね。最近はなんだか体が熱いです」
そう言いながら服をパタパタと仰ぐ。
現在膝枕をされているという状況なので、ローアングルから見えてしまう。
ちらりと見える、ピンク色のあれ。
「さ、沙希! 最近なんか無防備だよ!」
「そ、そうですか?」
「そうだよ!」
一応手で目を隠す。
「……怜太さんと一緒にいるから、ですかね」
「っ……‼」
その言葉の破壊力は半端じゃない。
軽く理性が吹き飛びそうになった。
「そういえば、部屋の掃除もしておきましたよ」
「部屋の掃除も⁈」
「はい! そういえば、トイレットペーパーが切れそうなので明日買いに行きたいですね」
「そ、そっか。じゃあ明日スーパーにでも行こうか」
「はい!」
もはや沙希の方が、俺の家を知っている気がする。
なんという至れり尽くせり。
もはやお礼の範疇を超えている気がする。
「(何かしたいけど、何したらいいかわかんないな……)」
沙希の膝の上で考えたが、答えは見つからなかった。
▽
「なぁ怜太。ちょっといい話があるんだが……」
「何その詐欺の常套句みたいな言い方」
何なら海斗の顔も詐欺師のようだ。
「オレだよ、オレ! オレオレ!」
「無理やり詐欺師の寄せなくてもいいよ……」
「わりーわりーちょっとノってみた」
海斗はほんとにいたずらっ子な小学生という感じがする。
こないだなんか、公園でジュースを飲んでいたら、気づいたらそこにいた小学生と楽しそうに遊んでいたくらいだし。
精神年齢が同じなのだろうか。
「それより海斗。例のやつ」
「そうだったそうだった。なぁ怜太、これいるか?」
「ん?」
海斗が二枚の紙をひらひらさせる。
流果の方を見ると、白い歯を見せてニコッと笑顔を返された。
俺の背後のクラスの女子がまた沸く。
凄まじいイケメンオーラだ。
「それ、何?」
「逆になんだと思う?」
「うーん……デパ地下の割引券?」
「いや主婦かッ!」
「海斗テンション高いな」
「それな」
海斗はあからさまにため息をついて、紙を俺の目の前に差し出してくる。
「これは遊園地のワンデーパスだ!」
「へ、へぇー」
そういえば、久しく遊園地行ってないな。
「実は近くの商店街で当ててなぁ……な?」
「そうだね」
「だな」
「すごいね」
「それで、これをお前にやる」
「えっ⁈ いいの⁈」
「あぁ、俺たち遊園地にさほど興味ないしな」
「で、でもほんとにいいの?」
「いいんだよ。これで楽しんで来い」
「あ、ありがとう」
海斗からチケットを受け取る。
流果と壮也が、微笑ましい笑みを浮かべて俺のことを見てきた。
「楽しんで来いよ」
「これで仲、深めてきちゃいなよ?」
流果の言葉で察する。
だが……これはちょうどいい。
何かお礼をしたいと思っていたところだ。
「わかった。大事に使わせてもらうよ」
「おう!」
チケットが二枚。
もう一人誰を誘うか。
それはもう、決まっていた。
▽
「楽しんでくれるといいな」
「俺としては、キスくらい済ませて欲しいんだけどな?」
「あの二人が、ねぇ?」
「まぁ二人が楽しんでくれれば、それでいいだろ」
「いい兄で、友人だな」
「壮也いいこと言った!」
「それはそうと、何気にあのチケット高かったね」
「何言ってんだ。安いくらいだよ」
「……海斗って、ほんとカッコいいねぇ」
三人で割り勘して買ったことは、三人だけの秘密である。
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