第46話 一緒に歩いていこう


 ひんやりと冷えた夜風に当たりながら、帰り道を歩く。


 最近はすっかり、日が落ちるのも早くなっていた。


「もうすぐ冬なんですね」


「そうだね。あっという間だ」


 沙希の部屋でハグをした後。


 卒業アルバムを見たりして過ごしていると、あっという間に帰る時間。


 楽しい時間とは、本当に過ぎるのが早い。


「……こうやって、私たちもあっという間に変わっちゃうんですかね」


「急にどうしたの?」


「いや、なんというか……幸せすぎて、逆に失うのが怖いというか、変わるのが怖いというか……」


「あぁーそれ、分からないでもないな」


「そうですか?」


「うん」


 きっと、俺と沙希の関係もいつか変わる。


「……でも、大丈夫だよ。きっと、俺と沙希はいい方に変わっていくよ」


「怜太さん……」


「大丈夫。俺はずっと、沙希のこと好きだから」


「っ‼ れ、怜太さんったら……もうぅ」


 こんな表情を見せてくれる沙希を、嫌いになるわけがない。


「……えいっ」


「どうわっ!」


 沙希が俺の腕にしがみついてくる。


 腕に感じる、柔らかな感触。


 それが何か、当然わかっていて。


「さ、沙希⁈」


「……こ、これはスキンシップです!」


「そ、そうですか……」


「私、できる限り怜太さんと密着していたいので」


「沙希……全く、可愛いなぁ」


「……定期的に可愛いって言ってくれる怜太さん、好きです」


「……定期的に好きって言ってくれる沙希、好きだよ」


「…………」


「…………」


「「ぷっ」」

 

 二人で吹き出して、笑った。


 きっとこの笑顔は、永遠だ。


「……あの、怜太さん」


「ん?」


「そ、その……これからの私たちのことなんですけど……」


「う、うん」



「……怜太さんは、ハグ以上のことをしたいって、思いますか?」



「っ‼」


 一体なんて答えたらいいんだろう。


 少し迷って、素直に答えることにした。


「……そ、そりゃ、したい……けど」


「そ、そうですよね……」


 顔を真っ赤にさせる沙希。


「……沙希は、どうなの?」


「わ、私は……したい、です」


「……そ、そっか」


 なんだか、一緒の気持ちなことが嬉しい。


 ただ、お互いにそういうことに関して免疫がないのは、目に見えていた。


「……でもさ、何度も言ってるけど、俺たちのペースでいいと思うんだ」


「そうですね」


「うん。でも、沙希がしたくなったら、いつでも言って欲しい。正直なことを言えば、きっかけがなくて踏み出せないだけだからさ」


「……はい、分かりました。でもその代わり、怜太さんも言ってくださいね? 怜太さんがしたいなら、私は受け入れます。だって、それが私にとっても、したいことですから」


 お互いにお互いを尊重する。


 ――なんて美しい関係なんだろう。



「……ちなみに、今私がちゅーしたいって言ったら、してくれますか?」



 沙希が上目遣いでそう言う。


「そ、それは……うまくできないかもしれないけど、頑張るよ」


「ふふっ、怜太さんならそう言うと思いました。……でも、私が恥ずかしくて……」


「沙希、そういうのに免疫ないもんね。こないだ恋愛映画見た時だって」


「も、もうぅ! それはからかわないって約束でしたよね!」


「だって、あの時の沙希が可愛かったんだよ」


「っ……‼ 怜太さんのばかっ!」


 優しいばか、だ。


「……俺たちが幸せになれる道を、一緒に歩こうね」


「怜太さん……。それはプロポーズですか?」


 からかうようにそう言う。


「ははっ、そうかも」


「…………そ、そうですか。ふ、ふぅ~ん……そうですか」


「……もしかして、照れてる?」


 沙希が視線を落とす。


 そのまま言った。





「照れてますよ……?」





 陰で顔は見えなかったけど、真っ赤なのは何故かわかって。


 沙希が俯いてくれていて、よかったなと思った。



 ――だって、今の俺の顔を、沙希に見られたくないから

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