第45話 二人きりの部屋で
「じゃあそろそろ」
「ん? どうしたの、お母さん」
沙希のお母さんが、外行きの恰好をして玄関に向かう。
「私、この後お友達とお茶会なのよ。それに……私、お邪魔でしょう?」
「お、お母さん⁈」
「そ、そんなことないと思いますけど……」
沙希と目が合う。
二人とも同じことを考えているのか、顔が真っ赤になった。
「あらあら。若いっていいわねぇ……うふふっ」
「べ、別に変なことしませんよ?」
「変なことって……何かしら?」
「っ‼」
完全にからかわれている。
「じゃあ、もう行くわね~。夜までは、誰も帰ってこないからね?」
「お母さん‼」
「うふふっ、じゃあまたね、怜太君」
「は、はい!」
上機嫌な様子で、沙希のお母さんが家を出る。
沙希と二人きりになる。
そんなの俺の家でいつものことのはずなのに。
「「(き、気まずい……)」」
あんなことを言われたせいだろう。
▽
リビングにいてもあれなので、沙希の部屋に行くことになった。
……もちろん、下心などほんの少ししかない。
「あ、あんまり綺麗じゃないですけど……」
「大丈夫だよ」
それに、沙希のことだからきっと綺麗だろう。
「お、お邪魔します……」
女子の、それも彼女の部屋に入るのは初めてのことなので、少し緊張する。
「うぉぉ。ここが沙希の部屋かぁ」
「あ、あんまりジロジロ見ないでくださいよ……?」
「わかった」
なんというか、実に女の子らしい部屋だった。
ベッドの上に可愛いぬいぐるみとかあるし。
普段あれを抱いて寝ているんだろう。
「(……なんか、変な気持ちになってくるな)」
「怜太さん、お好きなところに座ってください。一緒にお菓子でも食べましょ?」
「うん。そうだね」
床に座る。
沙希が隣に座ってきた。
「……なんか、変な感じです」
「そ、そう?」
「はい。いつも私が寝たりしてる部屋に、怜太さんがいるって……なんだか、ドキドキしちゃいます」
「俺も。というか、なんかいい匂いするよ」
「っ‼ は、恥ずかしいです……」
「……うん、沙希の匂いだ」
「れ、怜太さん……も、もうぅ。私の彼氏さんは、変態さんです」
「えぇ⁈」
変態だという自覚はない。
心当たりもないんだけど……。
「……でも、すっごく好きです。大好きです!」
「さ、沙希……」
無性に沙希に触れたくなった。
すると、沙希から俺の手を握ってきた。
「なんででしょう。いつも二人っきりなのに、部屋が違うだけで全然違いますね」
「そうだね。それに……ここ、沙希の部屋だし」
「そ、そんなに気になりますか?」
「ま、まぁ彼女の部屋だから」
「か、彼女……はうぅ」
照れたように頬を赤らめる沙希。
「……し、下着は、クローゼットの中にあ、ありますよ……?」
「……へ?」
「……う、うぅぅ」
「べ、別に俺、下着みたいとか、そういうこと言ったわけじゃないからね⁈」
「へ、へっ? ……はっ! わ、私、なんて勘違いを……」
たまに沙希は、天然でボケるときがある。
ちなみに、俺はそこまで変態じゃない。
「まぁそういうところも含めて、可愛いよ、沙希」
「っ……‼ れ、怜太さん……」
沙希がとろんとした表情を浮かべる。
そして、ぼそりと呟くように、小さく言った。
「怜太さん……私を、抱きしめてくれませんか?」
うるっとした瞳で、上目遣い。
そんなの、我慢できるわけがない。
「もちろんだよ、沙希」
「んっ、れ、怜太さぁん……」
小さな体が、腕の中におさまる。
まるで幸せそのものを抱いているような、そんな気分だった。
「もっと、もっと強く抱きしめてください……」
「……わかった」
いつもより、強めに抱きしめる。
ビクンと体が震えた後、沙希も強く抱きしめてきた。
いつもより強く、そして長く、抱き合った。
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