第50話 永遠と一瞬


 海の見えるところで海鮮丼を食べ、そこでもたくさんの写真を撮った。


 七色に輝くイルミネーションが綺麗で、二人の写真をとにかく残した。


「写真フォルダが、沙希の写真でいっぱいだな」


「あっ、ほんとですね。ちなみに、私のフォルダは怜太さんでいっぱいです!」


「ほんとだ。って、寝てるとこ撮ってない?」


「怜太さんの寝顔を写真に収められるのは、彼女の特権なんです!」


「そ、そうなの? じゃあ俺も、沙希の寝顔撮ろうかな」


「そ、それは恥ずかしいのでダメです!」


 首を横にブンブン振る。


「沙希はいいのに?」


「彼女! 限定なんですっ」


「それは残念だな」


 まぁ、ダメと言われても撮るんだけど。


「でも、今日だけでかなり増えましたね、写真」


「そうだね。今日はやけに、写真を撮った気がするよ」


「……きっと、今日のデートが楽しいあまり、忘れたくないんですよ」


「なるほど、確かにそうかも」


「あぁーなんで写真って、写真だけなんでしょうね。心地いい海風とか、怜太さんの温もりとかも一緒に保存出来たらいいのに」


「いつかそんな時代が来るといいね」


「そうですね。……でも、怜太さんの温もりはいつでも感じれますね」


 沙希が腕を絡ませてきた。


 少し寒いと思っていたので、ちょうどいい。


「仰せのままに」


「ふふっ、執事さんみたいです」


「お姫様?」


「もぉ~からかわないでくださいよ~」


「ははっ、ごめんごめん」


 笑って、展望台の頂点に向かって階段を上がる。


 刻一刻と、勝負の時間は迫っていた。





    ▽





 遮るもの一つない、開けた景色。


 海が黒く輝いていて、真っ白な月が揺れる。


「綺麗ですね……」


「そうだね」


 言葉を失う。


 その代わり、沙希がきゅっと手を掴んできた。


 握り返して、微笑んで。


 フェンスにもたれかかって、海を感じた。


「怜太さんとお家にいる時間も楽しいですけど、たまにはこういうのもありですね」


「そうだね。沙希ともっと、色んな景色を見たくなったよ」


「私はいつでも、怜太さんの傍にいますから。だから、色んな所に行きましょうね。これから」


「ありがとう。俺も沙希の傍にいるから」


「ふふっ、じゃあ絶対に、離れませんね」


「きっと、離れないよ」


 寒いからか、掴む手が強くなる。


 はぁ、と息を吐くと、雪みたいな息が空に昇って行った。


 展望台には、二人だけ。


 二人だけの世界。


 沙希のピンク色の髪が揺れる。


 出会った頃と変わらない、出会いを連れてきてくれる一輪の桜。


 それはどんなイルミネーションにも負けず、華やかに輝いていた。


 また目を奪われる。


 これで何度目か。


 

 ――いや、きっと何度も、この先何度も。俺は沙希に見入ってしまうのだろう。



「……沙希」


 海を見ながら、名前を呼ぶ。


「なんですか、怜太さん?」


「……あのさ」





「――キス、してもいい?」





 沙希が俯く。


 だが、ちょこんと見える耳は真っ赤になっていて。


 相変わらず、沙希は分かりやすい。


「……いいですよ」


 瑞々しい唇が揺れる。


 俺は沙希の肩を掴み、向き合った。


 

 二人だけの世界。



 どんな辛いことだって乗り越えられる、まるでユートピアみたいな世界。


 幸せがシャボン玉のように浮かんでいる、桜色の世界。


 この先も、俺はきっと沙希とこの世界を――生きていく。


「…………」


「…………」


 大きな瞳に、整った顔立ち。


 抱きしめればビクンと震えて、それでも求めるように強く抱き返してきて。


 手を握るのが大好きで、実は甘えん坊。


 照れ屋で、顔を隠そうとしても真っ赤な耳が隠せてなくて。


 膝枕は世界一よく眠れて。幸せに包まれて。


 いつでも俺の傍にいてくれて、微笑んでくれる。


「沙希」


「……怜太さんっ」


 視線が交わる。


 沙希がゆっくりと目を閉じた。


 それを合図に、決意を固めた。





「沙希、ずっと好きだよ」




 

 そう言って、俺はキスをした。



「んっ⁈ んあっ、ん、んぅ……」


 聖夜の夜に。


 永遠と一瞬を併せ持った時間が、幸せに流れていく。


 ピンク色の色づく世界。


 この景色は、全身全霊で恋をしないと、見られないのだろう。


 沙希の唇から、そっと離れる。


「れ、怜太さん……き、キスの前に、あんなこと言うなんて、反則です……」


「ごめんね。つい、言いたくなっちゃって……」


「許しません。なので、ちょっと顔をこっちに近づけてください」


「ん、ん?」


 ひとまず、沙希の方に顔を近づける。


 すると沙希がグイっと俺の顔を寄せて、唇を重ねてきた。


 長いこと重なり、沙希が離れる。


 そして、満面の笑みを浮かべて言うのだった。










「怜太さん、愛していますっ」










 やっぱり、どの景色を見ても、俺の彼女が一番綺麗だ。


 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


――永遠だ。



次回、最終話

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