第10話 可愛すぎる家庭的な女の子
「いただきます」
「はい、召し上がれ」
手を合わせて、スプーンを持つ。
目の前でホクホクと湯気を立たせるカレーが、食欲をそそった。
……ゴクリ。
「あむ……お、美味しい!」
「ほんとですか⁈ よかったぁ」
「これほんとに美味しいよ! 何なら母親のよりも美味しいかも……」
「それはお母さんに申し訳ないですけど……嬉しいです」
「すごいな、これ。こんな料理が頻繁に食べられる海斗が羨ましいなぁ」
そう言うと、沙希が顔をぼふっと真っ赤にさせた。
「さ、沙希⁈」
「そ、それは……プロポーズですか⁈」
「ち、違うよ! 俺はただ純粋な気持ちを伝えたまでで……」
「そ、そうですよね! あはは、なんかすみません……」
「気にしないで! 俺が変なこと言ったせいだし」
「変なことだなんてそんな! ……嬉しかったです」
俯く沙希。
恋する乙女のような表情は、かなり刺激的だった。
「そ、そっか。なら、よかった」
「は、はい……」
なんだかこっちまで熱くなってくる。
俺は腕をまくって、また一口口に入れた。
「それにしても、ほんとに美味しいなぁ」
「ほ、褒め過ぎですよ! 褒められすぎて私、死んじゃいそうです」
「それは困った。この沙希の料理はこれからも食べたいから、控えめにしないと……」
「っ……‼ ま、また怜太さんはすぐそういうこと言う!」
「俺なんか言った⁈」
沙希がぽかぽかと肩を叩いてくる。
しかし、肩たたきにしては少し弱い程度の威力。
それが無性に可愛かった。
「もうぅ……怜太さんのばか」
「ご、ごめん」
「……許してあげます」
「ありがとう」
「ふふっ、いえいえ」
太陽のような、温かな微笑みを浮かべて、沙希もカレーを食べ始める。
エプロンをしながら正座をし、俺の正面でご飯を食べる美少女。
穏やかな表情を浮かべていて、時折視線が合う。
最初は照れたように視線を逸らすのだが、すぐに優しく微笑んで俺のことを見てきた。
「(……可愛すぎる)」
俺の脳内はその言葉で溢れかえった。
「怜太さん。私の料理、また食べたいですか?」
「んー、まぁ、できることなら」
「分かりました。じゃあまた今度、料理しに来ますね?」
「いいの?」
「はい! むしろ私が、怜太さんに料理を振る舞いたいんです」
「そっか。じゃあお願いしようかな」
「ありがとうございます! その代わりに……またたくさん、褒めてください」
「そんなことでいいの?」
普通に俺のできることならなんでもする所存だったが。
褒めるだけというのは、少しリターンが足りないのでは? と思う。
しかし沙希は満面の笑みで、
「はい! それがいいんです」
「……そっか。じゃあたくさん褒めるよ」
「やったっ!」
……沙希は不思議な子だ。
▽
「今日はありがとね」
「いえいえこちらこそ。楽しかったです」
帰り道。
すっかり暗くなってしまった道を、沙希と二人で歩く。
「ほんと、沙希って家庭的だね」
「ほんとですか⁈」
「ほんとほんと。今どき家庭的な女の子は珍しいよ」
「そうですかね?」
「……そうだと思うよ」
俺の知っている女の子は、家庭的とは無縁の人で……って、思い出すのはやめよう。
今は沙希と楽しく話したいのだから。
「そうですか……えへへ。嬉しいです」
沙希が照れくさそうに笑う。
「沙希って、よく笑うよね」
「そうですかね?」
「うん。すごくいいと思うよ」
「⁈ れ、怜太さんって……女の子好きだったりするんですか?」
「そ、そんなことないけど……どうして?」
そんなこと、言われたことがない。
「いや、だって……的確にキュンポイントを突いてくるんですもん(ボソッ)」
「ん?」
「ふふっ、何でもないですよーだ」
上機嫌にくるりと一回転する沙希。
なんだか楽しそうで、俺も思わず笑ってしまう。
そんな俺の様子を見てまた沙希が笑い、なぜか二人で笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます