第23話 恋がわからないや
最近、昼ごはんも沙希が作ってくれるようになった。
申し訳ないと思う反面、昼も沙希の美味しい料理が食べれるということで非常に嬉しい。
「ほんと、これはもう妻だね」
「だからそういうのじゃないって!」
「怜太には作るのに、なんでお兄ちゃんには作ってくれないんだよ……」
「……なんかごめん」
項垂れる海斗。
海斗には悪いが、俺にだけ作ってくれるという特別感がほんの少し嬉しかった。
「最近怜太、なんか顔色いいよな」
「えっ、そうかな?」
「沙希が健康的な料理を作ってくれるからじゃないか?」
「そうかも」
「健康に気遣ってくれる、いい奥さんだねぇ?」
「流果いじりすぎだって!」
「あははっ、ごめんごめん」
でも、改めて思えば以前より体調を崩すことはなくなった。
ほんと、沙希様様だ。
「俺も親身になってくれる女の子、欲しいなぁ?」
「怜太はいいとして、なんで俺の方を見るんだよ、流果」
「壮也に自覚なし、と」
「壮也らしいけどね」
「?」
はてなマークを頭上に浮かべながら、フランスパンをかじる壮也。
その姿も又、壮也らしい。
「あっ、そういえば俺、この後用事あるんだった」
サラダをかきこみ、野菜ジュースを飲んで一息。
「行ってらっしゃい」
「いってらー」
「ファイト」
「おう! 優雅な昼休みを~」
颯爽と教室を出て行く流果。
残された俺たち。
「……今月に入って何回目?」
「四、いや五回目じゃないか?」
「正確には八回目な」
「「すごっ」」
イケメン三人衆の中でも、一番人気の流果。
言ってしまえば、妥当な回数だ。
「まぁあと一か月ちょいで夏休みだからな」
「あぁーもうそんなに」
「……なぁ、いいこと思いついたんだけど」
「「…………」」
海斗がいたずらを思いついた子供のような表情を浮かべる。
何を考えているのか、俺たち二人は当然わかった。
▽
人気のない中庭。
そこに佇む二人の男女を、木の陰から見ていた。
「(ちょっと海斗! 体でかいよ!)」
「(しょうがねぇだろ? それより、あんま大きい声出すなよ?)」
「(わ、分かってるよ)」
「(お前ら静かにしろ)」
海斗の提案で、流果の告白をこっそり見に行くことにしたのだ。
プライバシーがどうとかで、反対したのだが……正直、こういうのを一度やってみたいと思っていた。
……流果には後で謝ろう。
「多田君、来てくれてありがとう」
「いえ、ちょうど暇だったので」
「そっか。じゃあちょうどよかったね」
「そうですね」
薄紫色の長い髪を一つに纏めている、大人の雰囲気漂う美人。
この人、どこかで見たような……。
「(おい! あれ三年の下北先輩じゃねぇか!)」
「(有名人なの?)」
「(たぶん全校生徒知ってるほどの、超美人で人気の人だよ。あいつすげぇな)」
海斗がそういうのなら、間違いない。
確かに、沙希とはタイプが違うがかなり美人だ。
「ねぇ、多田君。今彼女って……いる?」
「いませんね」
「そっか、なら、さ……」
ごくりと唾を飲む。
「私と、付き合わない?」
海斗が俺の髪を引っ張ってくる。
気持ちは分かるが、やめて欲しい。
下北先輩の告白に対して、流果は至って真面目な表情で即答した。
「ごめんなさい。俺、恋愛に興味がないので」
「……そっか。ならしょうがないね。ありがとう」
「いえ」
下北先輩が走り去っていく。
下北先輩の目には、薄っすら涙が見えた。
はぁ、とため息をつく流果。
「お前ら、いつまで見てんだ?」
「「「げっ」」」
どうやらバレていたらしい。
降参して、流果の前に行く。
「悪い流果。覗きしちまって」
「これは見世物じゃないんだぞ?」
「ごめんね、流果。ちょっとしか出来心で……」
「許さん!」
「いてっ」
手刀が俺の頭に入る。
「よし、許した」
「優しいな⁈」
「だろ?」
流果が白い歯を見せて笑った。
だが、心なしか顔が暗い。
「……ふぅ。ダサいとこ見せちゃったなぁ」
「そ、そんなことないよ! むしろ改めて流果すごいなって思ったよ」
「そうか? まぁ俺は、凄いけどね?」
「自信過剰かっ!」
「確固たる事実からだね……」
「はいはい流果さんはモテますよーだ」
「そういう海斗も、モテるくせに」
海斗と流果が笑う。
そして流果が、また一度息を吐いた。
「それにしても、恋って複雑だよな。この年になっても、よくわかんないや」
百戦錬磨かと思っていた流果から零れ落ちた言葉。
その言葉が、俺の胸の中につっかえる。
「(……俺も、分からないな)」
いや、思い出したくないだけかもしれない。
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