第36話 夏休み最後の思い出作り
夏休みも終盤に差し掛かっていた。
朝沙希とランニングをし、ジムに行って帰ってきたら沙希とまったりする。
そんな幸せな日々が、間もなく終わる。
本当に、あっという間だった。
俺と沙希は夏休みの最後の思い出作りのために、少し遠出をして海を訪れることにした。
遊園地に行った時と同じように、最寄り駅で待ち合わせをする。
「あっ怜太さん! おはようございます!」
「おはよう、沙希。今日は沙希の方が早かったね」
「はい! 怜太さんばかりに待たせていたら、申し訳ないですから!」
「沙希らしいね」
「さすが怜太さん。私のこと、よく知ってますね?」
「そりゃ、ずっと一緒にいるからね」
「ふふっ、そうですね」
元気いっぱいに微笑む沙希を見る。
ホワイトカットソーにグリーンの花柄ロングスカート。
以前とは違い、大人びた、落ち着いたコーデだった。
「今日の沙希は、なんだか新鮮でいいね」
「ほんとですか⁈ ……ち、ちなみに、そ、その……か、可愛いですか……?」
「……か、可愛いよ」
「……えへへ。ありがとうございます! 嬉しいですけど、なんだか照れちゃいますね」
「俺も、結構恥ずかしい」
「ふふっ、怜太さんってほんと、照屋さんですね」
「沙希もね?」
「また一緒です!」
「似た者同士なのかもね」
「そうですね!」
こうして、海に向かった。
▽
「わぁぁすごい綺麗です!」
「そうだね」
隣ではしゃぐ沙希。
目の前に広がるのは、果てしなく青い海。
なんとも、絵になるコンビだ。
「風がすごく気持ちいいです!」
「だね。潮風も、悪くないなぁ」
「怜太さん、砂浜に行きましょう!」
沙希が俺の手をぐいと掴む。
「そんなに急がなくても、砂浜は逃げないよ?」
「一刻も早く、怜太さんとはしゃぎたいんです!」
……か、可愛い。
何人か天使のような沙希を見てボーっとしていた。
沙希の魅力は、海にも勝るのだろう。
「しょうがないなぁ……今日はとことん、沙希に付き合うよ」
「ほんとですか⁈ じゃあ……今日は怜太さんに、たくさん甘やかされちゃおうと思いますっ」
「う、うん」
沙希が眩しい。
間違いなく、今この場所で最も沙希が輝いていた。
「(ほんとに、この子の隣に立っても不自然じゃない男になれるのかな……)」
そう不安になるけど、
「怜太さんっ! 早く早く!」
「う、うん!」
沙希の太陽のような笑顔を見ていたら、そんな不安など消え去ってしまった。
今は、この瞬間を楽しむとしよう。
▽
沙希の要望で、ソフトクリームを食べていた。
「ん~~~‼ 美味しいです~!」
「ほんとだ、美味い」
沙希とソフトクリーム。
……これほどにマッチする組み合わせはあるだろうか。
「チョコも美味しそうですね……」
「食べる?」
「えっ⁈ い、いいんですか……?」
「うん、いいよ」
「……で、でも。か、か、間接き、キスになっちゃいません?」
もじもじとそう言う沙希。
「俺は別にいいけど」
「い、いいんですか⁈」
沙希が食い気味に顔を近づけてくる。
「ぜ、全然いいよ」
「……あ、あの。怜太さんがそう言ってくれるのは、凄く嬉しいんですけど……」
顔を真っ赤にして、沙希が言った。
「わ、私のこと、異性として意識してます、か……?」
「え、えぇ⁈」
「……こ、答えてください」
沙希は一体何を言ってるのだろう。
答えなど、決まり切っているのに。
「……そ、そりゃ、し、してるよ」
「……ほ、ほんとですか?」
「う、うん」
「……えへへ。そ、そうですか。ふふっ」
沙希が上機嫌に笑う。
……謎だ。
「ど、どうして急にそんなことを?」
「……だ、だって、怜太さん手だって繋いでくれるし、密着しても許してくれるし。か、間接キスだって……」
「だから、異性として意識されてないと思ったの?」
「は、はい……」
どうやら沙希は、俺に対する認識を少し間違えているようだ。
「沙希。俺は意識していないように見せようとしてるだけで、ほんとは結構……い、意識してるんだよ?」
「っ……‼ れ、怜太さん……」
沙希が俺のことを見つめる。
ふと、垂れるソフトクリームが目に入った。
「沙希! 垂れてる垂れてる!」
「はっ! は、早く食べないと……!」
ペロペロと舐める沙希。
その姿にドキッとして、目をそらす。
「(今だって、意識しまくりだよ……)」
しかしそんなこと気づかない様子で、美味しそうにソフトクリームを頬張ったのだった。
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