第37話 終わり、また始まる


 時間はあっという間に過ぎ。


 俺と沙希は帰りの電車に乗っていた。


 夕陽が沈んでいく。


 隣には、ぐっすりと寝ている沙希。


「れ、怜太さん……」


 昼間に散々はしゃいだからか、揺られ始めたらすぐに寝てしまった。


 もはやすっかり、俺の肩が沙希の枕になっている。


「子供みたいだな、沙希は」


 いたづらに頬を突いてやる。


「ん、んぅ……怜太さんったら」


 俺の人差し指を、大事そうに両手で包む沙希。


 その姿が赤子のようで、愛おしくてたまらなかった。


「(でも、俺は沙希に支えられてるんだよな)」


 こんなにもか弱くて、手の平に収まってしまいそうだが。


 俺は今日という今日まで、沙希に支えられてきたのだ。


「ありがとな、沙希」


 俺が変われているのか。


 それは正直分からない。


 だけど、変わりたい。


 その思いに、変化はなかった。


「ほんと、ありがとう」


 沙希の頭を撫でる。


 すると沙希がにへらと頬を緩ませた。


「君の隣に、立てるかな?」


 返事はない。


 でも、幸せそうな沙希の顔を見ただけで、不安はなくなった。


 気づけば俺も眠りに落ちていて。


 終点につくまで、二人で肩を寄せ合って眠っていた。





    ▽





「怜太、準備はいいね?」


「うん、大丈夫」


 夏休み最終日。


 今日はジムを休んで、あるところに来ていた。


 目標達成に大きく近づくであろう、仕上げの場所だ。


「じゃあお願いします」


「了解っ。怜太君、カッコよくしちゃうよ?」


「お、お願いします!」


「俺からも、お願いします」


「うん、任せて!」


 そう。


 今日は流果行きつけの美容院に来ていた。


 この長い髪を切って、イメチェンするためだ。


 流果の勧めで、髪を切るのは夏休み最終日にしたのだ。


「まぁ相田さんに任せておけば問題ないよ、怜太」


「すごい信頼だねぇ多田君? ハードルを上げられると、困っちゃうんだけどなぁ……」


「でも、相田さんなら余裕でしょう?」


「まぁね」


 相田さんはカリスマ美容師らしい。


 自分で髪を切っていた俺とは無縁の存在だったが……まさかこんなにもおしゃれなところで髪を切ってもらうとは。


「じゃあ怜太君。よろしくね?」


「は、はい!」


 こうして、最後の仕上げが始まった。





    ▽





 夏休みが終わり、新学期が始まった。


 俺にとっては、運命の日である。


 朝起きて、洗顔をして。


 流果に教えてもらった通り、髪をセットして制服を少し着崩す。


 体を鍛えて自信がついたせいか、背筋がピンと伸びる。それに、なんだか表情もいい気がしてきた。


 ドキドキしながらドアを開く。


 ドアの前には、満点の笑みを浮かべた沙希が立っていた。


「怜太、さん?」


「……へ、変じゃないかな?」


 沙希が黙る。


 やっぱり変だったのだろうか。


「……その、なんというか……別人みたいです」


「そっか。ならよかった。よしっ、行こうか」


「は、はいっ!」


 沙希と並んで道を歩く。


 沙希と一緒に歩いていると、大抵視線を感じる。

 

 それは大体沙希に対する視線なのだが……今日は、やけに俺にも視線を感じた。


 ……気のせいだろうか。


「なんかすごい、見られちゃってますね……」


「そ、そうだね」


 沙希もどうやら恥ずかしいらしい。


 ふと、周りの声が聞こえる。


「何あの美男美女カップル」


「女の子の方は知ってるけど……男の方は誰?」


「転校生?」


「カッコいい……」



 ――もしかして。


 

 沙希と別れて、教室に入る。


 すると、視線が一気に俺の方に集まった。


 ざわつく教室。


「誰?」


「えっめっちゃイケメンなんだけど……」


「転校生じゃないの?」


「じゃあなんでこの教室に……」


 視線を浴びながら、そそくさと自分の席に移動する。


 鞄を置いて、席に座る。


 すると前の席に座っていた土田君が、目を丸くして言った。



「……お前、成宮?」



「う、うん」


 小さくうなずく。



「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」」」」」」



 教室が揺れる。


 そこで俺は、ようやく確信した。



 ――俺はどうやら、変われたらしい。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ようやく、物語も終盤に突入していきます!

と言っても、あと十話以上は間違いなくあるのですか(笑)


※明日から、1日1話、19時投稿になります!

 よろしくお願いします(o^―^o)ニコ

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