第31話 新しい日々が来た



 ――俺は、沙希の隣にいても不自然じゃない男になるよ。



 そう決意して、数日が経ち。


 俺たちは夏休みに突入していた。


「おはようございます、怜太さんっ!」


「おはよう、沙希」


 桜色のポニーテールがぴょこぴょこ揺れる。


 ランニングシューズにスポーツウェアを着た沙希が走ってきた。


「また怜太さんの方が早かったですね……」


「最近いつもより早く目が覚めるんだよ」


「そうなんですね! ……もしかして、少し楽しみだったりします?」


「……まぁね」


「……ふふっ、怜太さんったら」


「そろそろ、行く?」


「はい!」


 横に並んで、駆け出した。





    ▽





 家から少し行ったところにある、大きな池を囲んだ緑あふれる公園。


 そこは有名な公園で、日曜は家族連れで溢れかえる。


 俺はまず、肉体改造として朝のランニングを始めた。


 その他筋トレなど、ジムに行ったりして励んでいる。


「それにしても、なんで沙希も一緒に走ってくれるの?」


「そうですね……まぁ、見ていて欲しいって怜太さんに言われたから、ですかね?」


「っ……‼ あ、ありがとう」


「いえいえ。……まぁ、本音を言うと最近お肉がついちゃって」


 そう言う沙希だが、沙希の体は引き締まっていて、かなりスタイルがいい。


 しかし、女子は男と違って、些細な変化ですら気にするらしい。


「そんなことないと思うけど……まぁ俺としては、沙希が一緒に走ってくれるのはすごく助かるよ」


「ほんとですか⁈」


「うん、ほんと、嬉しいよ」


「れ、怜太さん……」


 頬をほんのり赤らめて、俺のことを見つめてくる。


「……はっ!」


 しかしすぐに気づいて、顔を真っ赤にして視線を逸らす。


 その姿が可愛くて、思わず笑ってしまう。


 ……沙希に怒られたけど、後悔はない。





    ▽





 ランニングから帰ると、沙希が朝ごはんを作ってくれる。


 健康に良く、肉体改造にはもってこいの朝ごはんだ。


「いつもランニングで疲れてるはずなのに……ありがとね」


「いえいえ! 怜太さんに料理を作るの、楽しいですし!」


「そっか。じゃあ俺たち、ウィンウィンな関係だね」


「ふふっ、そうですね!」


 最近三食すべてを沙希に作ってもらっている気がする。


「うん、今日も美味しいよ」


「ほんとですか⁈ よかったです!」


 なんだかんだで、沙希は俺のサポートを全力でしてくれている。


 ……どうやら、俺は沙希なしじゃダメらしい。


 情けないが、このご厚意は受け取らないわけがない。


 でも夏休み後、変わった俺ですべてを返そうと思う。


「今日はどうする? 俺は午後からジムに行くけど」


「じゃあ怜太さんがジムに行ってる間、宿題でもしてますね」


「わかった。じゃあそれまで、ゆっくりしようか」


「はい!」


 朝ごはんを食べた後、二人ソファに座ってまったりした。





    ▽





 今日も一日、トレーナーさんにみっちりトレーニングをつけてもらい。


 すっかりへとへと。


 どれだけ自分がこれまで何もしてこなかったのか、痛感させられる毎日である。


「(……でも、辛くはないんだよなぁ)」


 だって、家に帰れば。



「怜太さん! お帰りなさい!」


 

「ただいま」


 天使のような沙希が、出迎えてくれるのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る