第34話 夏のサプライズ


 日々の日課を終え。


 一度沙希が家に帰るというので、汗を流すために風呂に入った。


「(最近、だいぶ体が出来てきたな)」


 窓に映る自分の体。


 程よく筋肉が付き、シックスパックが出来ている。


 前の自分では想像できないほどに、体が仕上がってきていた。


 夏休みも中盤。


 適度に海斗たちや沙希と遊んだりしていて、今年の夏休みはかなり充実したものとなっていた。


『ピンポーン』


 どうやら沙希が来たようだ。


「いらっしゃい、沙希」


「お邪魔します、怜太さん!」


「随分長かった……ね?」


 ふと、沙希が持っている大きなカバンが目に入った。


「いやぁ昨晩準備はしたんですけど、何を持っていくかまた悩んじゃいまして……」


「……え? そんな荷物持ってくる必要あったっけ?」


「そ、そりゃありますよ! だ、だって……」


 沙希が照れたように上目遣いで言った。




「今日、怜太さんとお泊り会、するんですから……」




「……へ?」





    ▽





「し、知らなかったんですか⁈」


「全くの初耳だよ!」


 もちろん、聞いて忘れるわけがない。


「そ、そうなんですか……」


「どうして、俺の家でお泊りを?」


「それは、家族が旅行に行くらしくて、家に私一人になってしまうから、怜太さんのお家にお邪魔させてもらえって、お兄ちゃんが……」


 また海斗の差し金か……。


 すぐまさ海斗に電話をかける。


『おっもしもし怜太? アロハ~♪』


「ちょっと海斗! なんで沙希が俺の家に泊まりに来ること、言ってくれなかったのさ!」


『サ・プ・ラ・イ・ズ!』


「この野郎ッ!」


 いかにも海斗がしそうなことだ。


『とにかく、泊めてやってくれないか? 沙希にあんなことやこんなことをしても、二人には黙っておいてやるからさ?』


「……よく意味が分からないんだけど」


『……お前ほんとに高校生?』


「そのつもりだけど」


『はぁ、とにかく。沙希を好き放題にしても、俺は知らないふりしといてやるから』


 ・・・。


「っ‼ そ、そんなことするわけないじゃないか! こ、こんなにもいい子に……!」


 沙希の方を見ると、きょとんと首を傾げた。


 純粋無垢な表情。


 この子に自分の欲望をぶちまけるなんて……そんなことは絶対にできない。


『あははっ! まぁとにかく、楽しめよ! じゃっ!』


「か、海斗⁈」


 ……切られた。


「ど、どうでしたか?」


「……サプライズで言ってなかったらしい」


「お、お兄ちゃんったら……」


 呆れたようにため息をつく。


「海斗はほんと、困った奴だね」


「ですね」


 それと同時に、いい奴なんだけど。


 沙希が俺の正面で正座をする。


「あ、あの……怜太さん。もし、よかったら……」


 そして緊張した面持ちで、言った。




「私を、怜太さんのお家に……泊めてくれませんかっ‼」




「…………うん、いいよ」


「な、なんでもしますから! お願いしま――へ?」


「だから、いいよ」


「……ほ、ほんとにいいんですか?」


「うん。沙希がよかったら、だけど」


「わ、私は怜太さんのお家に泊まりたいです!」


「そっか。なら、歓迎するよ」


「ほ、ほんとですか⁈」


 パーッと顔を明るくする沙希。


 いつも俺の家にいるのだから、泊まるくらい普段と変わらないだろう。


「やったっ!」


 それに、この笑顔を一日中見れるしな。


 

 というわけで、沙希が俺の家に泊まることになった。

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