第2話 不良? 三人衆との出会い


 思えば、始まりからおかしかったのだと思う。


 俺が好きだった彼女は、クラスの中で人気者。


 それに反して俺は、クラスの中でもギリ苗字くらいしか覚えられていない程度の人間。


 しかし、そんな俺だからこそ彼女に些細なことでマメに話しかけられ、好きになったのだと思う。


 ある時、あまり話したことのないクラスの男子が、そんな俺を見かねて言った。


『由美はやめとけ。噂だとな……男を使い捨ててるらしい』


 しかし俺は彼女に心酔していて、


『噂とかで人を判断するのは間違ってる。俺は俺がちゃんと見て、彼女を好きになったんだ』


 アドバイスをはねのけて、悦に浸って彼女に告白した。



『俺と付き合ってください!』


『うん、ちょうど彼氏いないし、いいよ』



 あまりにも軽い返答だったが、俺はそんなこと気にならなかった。


 だって、憧れの彼女と付き合うことになったのだから。

 

 だが付き合い始めてから、基本的に俺のおごり。

 たまに全く知らない他校の人がデートに参加していて、俺はみんなの財布として扱われた。


 俺は狂っていた。

 それを何にもおかしいと思っていたなかったのだから。


 その結果がこれだ。

 俺はやはり、使い捨てられたのだ。



『由美、彼氏できたらしいよ』



 俺を捨ててから三日後、その噂を聞いた俺はしばらく家に引きこもった。





    ▽





 午後十時前。

 

 エナジードリンクが切れてしまったので、買い出しに近くのコンビニへ向かう。

 

「それはヤバくないか?」


「うっせぇな! しょうがねぇーだろわかんねぇんだから!」


「海斗はほんと、乙女心が分かってないなぁ」


 その途中にある公園。

 そこでたむろしている三人組の不良? っぽい奴がいた。


「(……楽しそうだな)」


 漠然とそう思う。

 

「(俺もあんな風に、吹っ切れられたらよかったのに……)」


 そう思うのだが、俺にはできそうにない。


 イヤホンを耳に装着して、足早に公園を通過した。





 欲しいものを購入して、帰り道を歩く。

 

 イラつきは自然と湧き起らず。

 自分に対する嫌悪感が、胸中を渦巻いていた。


 顔を上げることもできず、地面を見ながら歩く。

 

 ――だからだろうか。


「いってなぁ……おい、何すんだよあぁ?」


「あ……」


 ガラの悪そうな男の肩にぶつかってしまった。

 四人組。

 

 俺を威圧するように見下してくる。


「すみません……」


「すみませんで許されるなら警察いらねぇよ!」


 お前が警察を語るなよ。

 と思ったが当然言えるわけがなく。


「す、すみません……」


「だから謝ってほしいわけじゃねぇんだよ! な? わかるだろ?」


「これ折れてるわぁー完全に折れてるわぁー!」


「早く出すもん出せよ!」


 ……なんて前時代的なんだ。


 心の中で笑ってやったが、拳を交えたら勝てるわけもなく。

 俺は大人しく、財布を取り出す。


「(……今までと、変わんないな)」


 諦めて差し出そうとした――その時。



「何ダサいことしちゃってんの?」



 後ろから足音が聞こえてきた。

 振り返ると、そこにはさっき公園で話していた三人組の男がいた。


「な、何だお前は!」


「加賀……って名前、知ってる?」


「か、加賀⁈ お、お前もしかして……‼」


 一番前にしゃしゃり出ていた男が引く。


「タツさんこいつ加賀っすよ! ここら辺シメてるっていう‼」


「ま、マジかよ⁈ 早く逃げんぞ!」


 男四人組が、慌てて逃げていく。


「はっ、ダッセーな」


「古いねぇやることが」


「絶滅危惧種じゃなかったのかよ」


 余裕そうにケラケラと笑って、俺の方に振り返る。

 そして一言、微笑んで、



「大丈夫か?」



 男の笑顔は、優しさに満ち溢れていた。

 

 力強く脈を打ち始めた心臓を抑えて、思わず叫ぶ。



「俺を、仲間に入れてください!」



 ……俺、何言ってんだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る