第26話 お家で休日を過ごそう


 梅雨の時期に入った。


 朝目覚めて雨が降っていると、何もやる気が起きなくなる。


「……暇だなぁ」


「……暇ですねぇ」


 二人掛けのソファに沈みながら、沙希とボーっとする。


 今日は休日で、どこかに行こうかと思っていたのだがあいにくの雨。


 なので俺の家で休日を過ごすことになったのだ。


 しかし、動く気力もなければやりたいこともない。


「……あっ、そういえば、最近見放題の会員になったんだけど……なんか見る?」


「いいですね! 見たいです!」


「わかった。じゃあこの中から選ぼう。ちなみに、何か見たいものとかある?」


「うーん……怖い系は苦手なので、それ以外がいいですね」


「沙希ってほんと、怖いの苦手だよね」


「それ、からかってます?」


「もちろん」


「れ、怜太さんのいじわる!」


「お互い様だよ」


「ん~~~~~‼」


 背中をぽんぽんと叩かれながら、テレビを操作する。


 話題の新作などが、一気に表示された。


 それを丁寧にスクロールしていく。


「あっ、これとかどう? すごい泣けるって有名のアニメなんだけど」


「なるほど……最近あまり泣いてなかったので、いいかもしれませんね!」


「じゃあこれにしようか。あっ、でも全部見るのに結構時間かかっちゃうけど……」


「大丈夫です! 今日は夜遅くまで、怜太さんの家にお邪魔しちゃおうと思っていたので」


「そっか。じゃあこれを見ようか」


「はい!」


 こうして、休日丸一日をかけて沙希とアニメを見ることになった。





    ▽





「結構見ましたね」


「だね。見始めたの昼過ぎとかだったのに、もう夕方だ」


「熱中して見ていましたから、全然気づかなかったですね」


「そうだね」


 沙希が「ん~!」と大きく伸びをする。


 その時、沙希の豊満な胸が服越しに強調された。


 俺は慌てて、目をそらす。


 意外に大きかったなとか、そういうことは今すぐ頭から消すことにしよう。


 こんなにも優しくしてくれる沙希に対して、下心ある目で見てしまうのは失礼だからな。


「よ、夜ご飯はどうしようか」


「そうですね……あっ、でも食材がないかもです……」


「今結構雨降ってるし、買い出しに行くのはめんどくさいよね」


「ですね」


「……しょうがない、今日は珍しく、出前でも取ろうか」


「いいんですか?」


「うん、いいよ。たまには沙希も休んだ方がいいしね」


「……じゃあ、お言葉に甘えて」


 出前アプリを起動する。


 そしてスマホを、沙希に渡した。


「好きなの選んでいいよ」


「私が決めちゃっていいんですか?」


「うん。日頃の感謝も踏まえてるから」


「怜太さんって、定期的に感謝してくれますよね」


「いつも感謝してるからね」


「ふふっ、怜太さんらしいです。じゃあ、決めちゃいますね」


 う~ん、と唸りながらスマホを操作する。


 少しの間悩んで、ピザを頼むことにした。





「ん~! 美味しいです!」


「ほんとだ。久しぶりに食べるピザも、いいね」


「ですね! うわぁ、チーズがすごく伸びます~!」


 伸びるチーズをはしゃぎながら食べていく沙希。


 ……か、可愛い。


「ん? どうしたんですか? そんなに私のことを見て」


「い、いや! すごいチーズが伸びるなって思って」


「……ははーん、分かりました! さては怜太さん……このピザ、食べたいんですね?」


「ま、まぁ」


「分かりました! じゃあ……」


 沙希が一切れ取り、俺の口の前に差し出してきた。



「はい、あ~ん♡」



「⁈ さ、沙希⁈」


「ほら怜太さん、早く食べてください!」


「わ、分かったから! あ、あー」


「あ~んっ」


 ……美味しい。


 少し味が分からないけど。


「美味しいですか?」


「うん、美味しいよ」


「それはよかったです!」


 そう言いながら、沙希が俺の食べかけをしれっと食べる。


「うん、美味しいです!」


「満足してもらえて、何よりだよ」


「はい! んふふ」


 終始ご満悦な沙希だった。





    ▽





 最終話のエンドロールが流れる。


「(やっぱり、すごくいい話だったなぁ)」


 なんて呑気に思いながら沙希の方を見てみると、


「ぐすっ、う、うぅ……」


 ボロボロに泣いていた。


 始めて見る、沙希の泣き顔だった。


「これ、使う?」


「あ、ありがとうございます……」


 近くにあったティッシュを渡す。


 ふと、俺は思った。




「沙希って、泣き顔も可愛いね」




「えぇ⁈」


 ……また思ってることが口に出てしまった。


「いや、その、なんというか……可愛いな、って」


「⁈ も、もうぅ! あ、あんまり見ないでください! 顔がぐちゃぐちゃなので」


「そんなことないよ?」


「恥ずかしいんです!」


 そう言いながら、沙希が俺の背中に回る。


 そして俺の背中に手を伸ばし、後ろからハグしてきた。




「しばらく、このままでいさせてください」




 こんなにも密着されて恥ずかしかったけど、


「いいよ」


 エンドロールが終わってもなお、しばらくの間このままでいた。

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