第29話 沙希の教室を訪問


 いつもは沙希が俺の教室まで迎えに来てくれるのだが、今日は俺が迎えに行くことにした。


 さすがに沙希に何もかもしてもらっては、申し訳ない。


「下級生の教室だけど、大丈夫か?」


「大丈夫……少し緊張してるけど」


「一緒に行ってやろうか?」


「いいから! さすがに一人で行けるよ」


「海斗、こう見えて結構心配してるんだよ」


「おま……そ、そういうのバラすのやめろ!」


「海斗、顔赤いぞ」


「壮也も俺をいじめるのはやめろ!」


 顔を隠す海斗。


 こういうところは、兄妹似ているなと思う。


「じゃあ行ってくるよ」


「行ってらっしゃい。頑張って、怜太」


「ありがとう、流果」


 手を振って、教室を出た。





    ▽





 初めて来る、下級生の教室。


 意を決して、声をかけた。


「沙希、迎えに来たよ」


 思ったより、教室に人がいて。


 一斉に俺の方を見てくる。


「あっ、怜太さん! お早いですね!」


「そんなことないよ」


「ふふっ、今準備しますね!」


「うん」


 沙希がニコニコ笑う。


 しかし、俺は向けられる多数の視線に戦々恐々としていた。


「あれが加賀さんの彼氏?」


「ってか加賀さん、彼氏いたのかよ」


「なんか冴えなくね?」


「すごい陰キャそう」


「釣り合ってねー」


 教室がざわつく。


 その中を突っ切るように、沙希がとてとてと歩いてくる。


「お待たせしましたっ!」


「いや、じゃあ行こうか」


「はい!」


 沙希と教室に出ようと思った時、



「ちょっと待ってください!」



 女子生徒数人に声をかけられた。


「み、みんな⁈ ど、どうしたの⁈」


「あの、私たち沙希の友達なんですけど……質問させてください!」


「し、質問?」


「はい!」


「ちょ、み、みんな⁈」


「沙希は少し黙ってて! これは重要なことだから」


 口籠る沙希。


 沙希の友達が俺に一歩詰め寄って言った。




「二人は、付き合ってるんですか‼」




「……へ?」


「み、みんな⁈ な、何言って……」


 沙希が顔を真っ赤にする。


 静まり返る教室。


「べ、別に付き合ってないけど……」


「ほんとですか? だって沙希、あなたの話ばかりするんですよ?」


「ちょ、それ言うのはダメ……!」


「それに今日だって、『怜太さんが迎えに来てくれるんだよねぇ』ってハイテンションに前髪整えてたり」


「あぁぁ! い、いやぁ……」


「最近話してても何か考え事するみたいにボーっとしてたりしてるんですよ?」


「っ~~~~~~~~~~!!!!」


「これで付き合ってないとか、ありえますか⁈」


「「「「「うんうん」」」」」


 沙希が俺の話を……意外だ。


 隣で沙希が、壊れた機械みたいになっていた。


「沙希、大丈夫?」


「も、もう私、お嫁に行けない……」


「ど、どういうこと⁈」


 今にも灰になってしまいそうなくらいに元気がない。


「それで、ほんとに付き合ってないんですか⁈」


「だから、付き合ってないよ!」


「友達以上恋人未満的な関係も、ですか⁈」


「そうだよ!」


「……じゃあ、二人はどういう関係なんですか?」


 ……確かに、俺と沙希はどういう名前の関係なんだろう。


 分からずにいると、沙希が声を上げた。


「これ以上は、もうだめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」


「さ、沙希⁈」


 沙希が駆け出す。


「逃げるのはずるいよ沙希!」


「もう許してください~!!!」


「ちょっと待って! 沙希!」


 沙希の後を追う。


 

 沙希がいつもの状態に戻るまで、しばらくかかった。

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